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刑事事件 ー 示談

はじめに

 

今日は、刑事事件における示談について、ご説明したいと思います。

 

・「示談金が振り込まれない!」

・「示談金の額はいくら(が妥当)でしょうか?」

 

については、以下の記事をご覧ください。 

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

示談の進め方

 

示談の進め方は、弁護士により様々だと思います。おそらく正解というものはなく、それぞれの弁護人の力量、信念、キャラクターによるところが大きいのではないかと思います。

 

被疑者・被告人が、たとえば窃盗罪などの罪を認めている場合において、弁護活動として最も重要となるのが、示談です。示談をすることで、(裁判にならずに)不起訴になったり、裁判でも執行猶予が付く可能性が各段に大きくなります。

 

まずは、検察官から、被害者の連絡先を教えてもらい、示談交渉を始めます。

示談が成立すると、被疑者段階では検察官に、被告人段階では裁判所に、示談書を提出し、有利な情状として考慮してもらうよう主張します。

 

示談が順調に行く場合

 

被害者に電話をし、被疑者・被告人が罪を認めた上で、反省していることを伝えます。

 

その際の被害者の声のトーンや話す内容から、被害者の被害感情が大きくないと判断した場合には、端的に示談をしたい旨と示談金の額を提案します。

そして、了解を頂ければ、直接お会いして、示談書を交わし、示談金をその場でお支払いして示談が成立します。

 

示談が順調に行かない場合ー被害者が怒っている等

 

電話した際に、被害者やその家族が、①非常に怒っていたり、②被告人に関して色々と執拗に問い詰めてきたり(「死刑にしろ!」など)、あるいは、③我々弁護人に対して敵意をむき出しにしたりする場合も結構あります。気持ちは十分に分かります。

 

もっとも、示談をする際には、このような嫌な経験をするので、刑事事件はやりたくないという弁護士が多いのは事実です。ストレスも溜まりますしね。でも誰かがやらねばなりません。

 

私は、被疑者・被告人に代わって、「本当に、申し訳ありませんでした。」と非常に丁寧に謝罪を致します

 

一方で、弁護人の中には、あくまでの被疑者・被告人の謝罪の意思を伝えるだけで、自分の口からは決して謝罪文言を言わないという方もいらっしゃいます。それはそれで自然ですし、そのような考えの先生がいらっしゃっても当然だと思います。

 

でも、私は、被告人の親のような立場で謝るようにしています

 

私は、謝ること自体に、あまり抵抗がありませんし、それほどはストレスも感じません。

 

弁護士自身が、真摯に謝ることで、被害者の態度が軟化することが結構あります。一般的には、弁護士は立派な職業という印象があるようで、その弁護士が、丁寧に謝ることで、「弁護士がそこまで言うなら・・・」ということで示談に応じてくれる場合は結構あります。やはり、日本人は「謝罪」の文化でしょうか。

 

また、真摯に謝られた結果、すっきりして、示談に応じてくれる被害者も多いです。(厳密には、被害者は、怒っているうちに、自分自身でどんどん盛り上がってしまい、さらにどんどんエスカレートして怒り続けることも多いのですが、時間が経つと落ち着てきます。その場合、私は相槌を打つだけで、あまり具体的な応答をせず、聞き役に徹します。)

 

電話ではうまくいかない場合

 

電話で埒が明かない場合には、直接お会いできないか提案します

 

もし、お会いできないと言われた場合には、おそらく示談の余地がないので諦めます。もっとも、「ご検討ください。」と一旦電話を切り、(拒否されていない限りは、)後日、再び、電話をすることはあります。

 

会えることになれば、示談の可能性が一定程度あることを意味します。わざわざ時間をとって会ってくれるわけですから。実際、被害者としても会った上で示談を断るのは申し訳ないという気持ちもあるようです。

直接お会いした場合には、上述したように、直接真摯に謝罪し、あるときは聞き役に徹し、何とか示談ができるよう努力します。

 

それでも、なかなかうまく行かない場合には、特に国選事件の場合ですが、一つだけよく言うセリフがあります。

 

「私は、刑事事件が係属している場合は、被疑者・被告人の弁護人として、示談金のお受け取りをお願いできるのですが、不起訴等により、被疑者・被告人が釈放された場合には、任務終了してしまいますので、示談交渉の権限がなくなってしまいます。その場合は、後で、ご自身で、あるいは、弁護士を雇って頂いて、被疑者・被告人と交渉して頂くことになります。それだと大変ですので、私がご協力できる今の段階で、何とか示談ができないでしょうか。」

 

金額はともかく、いずれは示談で解決しようと思っている被害者にとっては、(私のような弁護人が事件から外れ、)後で自分が被疑者・被告人と直接交渉することは非常に嫌なことでしょうし、自分で弁護士を雇うのもお金がかかります。そうであれば、今の時点で、示談をしておこうというモチベーションにつながります。

 

どうしても示談できない場合

 

残念ながら、一律に示談ができない場合です。大手スーパーやチェーン店などでの万引きの場合は、「当社は、一貫して万引きを許さないスタンスですので、一律に示談には応じません。」と言われることがあります。これは、会社(店)としての方針なので、どうしようもありません。

 

もっとも、フランチャイズのコンビニやレストランの中には、店長の判断で、示談をして頂ける場合もあります。

 

 示談できない場合に、贖罪寄付という制度もあります。これは、被疑者・被告人が反省と贖罪の気持ちを表明するために公益団体(弁護士会)とかに寄付するものです。

被害者には示談金を受け取ってもらえないので、第三者にその額を寄付するというイメージです。

 

私は、被疑者・被告人に積極的に勧めたしたことはありませんが、判決文の中には贖罪寄付をしたことを有利な情状として明示的に考慮しているものもありますので、一定の効果はあるのかもしれません。

 

まとめ

 

示談は、当たり前はありますが、①被疑者・被告人の反省・謝罪を伝え(私の場合は親のように謝り)、②被害者の言うことに耳を傾け、落ち着いたところで、③示談をお願いし、金額を決定します。

 

私自身は、幸いにも、「外見的には」まじめで真摯に見られるようですので、ちょっと得しているところがあるかもしれません。示談の成立率も結構高いです。

 

確かに、示談の際、特に、直接面会して交渉する場合は、嫌な思いをすることもありますので、当然ストレスに感じることもなくはないですが、成立したときには被疑者・被告人にとって非常な成果になりますし、弁護士として交渉力を鍛えるという側面もありますので、示談交渉を含む刑事事件を辞めたいとは思いません。