はじめに
前回の記事では、間接侵害と特許クリアランスというタイトルで、物の発明についての間接侵害リスクのポイントを解説しました。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
今回は、その2回目で、方法の発明について取り上げたいと思います。
方法の発明
方法の発明に関する間接侵害の規定は、以下のとおりです。
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物の発明の規定(101条1、2号)とパラレルな感じの規定なので間違いやすいのですが、方法の発明において、重要な一部の工程を実施していたとしても、間接侵害になるわけではありません。
この点を勘違いされている方が、知財に関わる方でも、結構いらっしゃいます。
条文どおりなのですが、あくまでも、方法の使用にのみ用いる物(のみ品)、方法の発明の課題に不可欠な物(不可欠品)を生産等した場合です。
くどいですが、(発明が規定する方法にのみ用いる)方法の工程の一部や、(発明が規定する方法の課題解決に不可欠な)方法の工程の一部を実施することが、間接侵害にあたるわけではありません。
方法の発明の工程の一部を実施した場合
それでは、方法の発明の工程の一部を使用した場合に、何らの侵害を問われないのでしょうか?
たとえば、工程A、工程Bからなる方法の発明を考えてみます。
・Aさんが工程Aを実施
→ 工程Aにより生じた中間生成物
→ (中間生成物を用いて)Bさんが工程Bを実施
→ Bさんが工程Bを実施
→ 完成品
Aさんが、前半工程Aを実施する場合
まず、Aさんは、方法の発明の一部の工程である工程Aを実施していますが、工程Bをも実施しているわけではないので、直接侵害にあたりません。
また、上述のように、工程の一部(工程A)の実施自体が間接侵害に問われるわけでもありません。
しかし、上記の例のように、中間生成物が生じる場合において、この中間生成物を、101条4号、5号が規定するのみ品ないし不可欠品にあたり得ると解する考え方があります。古い大阪地裁の裁判例(スチロピーズ事件)で、中間物質が間接侵害品にあたる旨判示したものがあり、そのような考え方を支持する学説もあります。
そのようか考え方によれば、間接侵害を問われてしまいます。
一方で、101条4号、5号の条文の文言は、「その方法の使用に(のみ)に用いる」とあり、「その方法の一部の(or 一工程の)使用に(のみ)用いる」とは規定されていませんので、(工程Aで生じ、)工程Bにのみ用いる中間生成物は、同各号には該当しない、つまり、間接侵害品にはあたらないと解する考え方もあります。
どちらかの考え方が、判例上、確立されているわけではないようですので、いずれにしても、方法の発明の工程の一部を使用する場合であって(たとえば、上記例の工程A)、中間生成物が発生し、その後、その中間生成物を用いて残りの工程の一部(たとえば、上記例の工程B)を他者が使用する場合には、Aさんが中間生成物について間接侵害を問われる可能性があるので一応注意が必要です。
ここでは、中間生成物の流通の把握が必要となります。
もっとも、工程Aの実施により、中間生成物が生じない場合は、Aさんは、直接侵害も間接侵害も問われないのが原則です。
後半の工程Bを実施する場合
この場合も、同様に、Bさんは、方法の発明の一部の工程である工程Bを実施していますが、工程Aをも実施しているわけではないので、直接侵害にあたりません。
また、上述のように、工程の一部(工程B)の実施自体が間接侵害に問われるわけでもありません。
もっとも、Bさんが、完成品を生産等する場合、つまり、製造方法の発明(2条3項3号)の場合には、完成品について直接侵害を問われる可能性があります。
一方で、発明が、単純方法の発明(2条3号2号)の場合には、完成品が生じませんので、直接侵害も、間接侵害も問われないのが原則になります。
方法の発明の一部を実施して、侵害を問われ得る場合
しかし、方法の発明の一部の工程しか実施しないAさんやBさんが、一切侵害を問われないとするのは、不当な場合があるかもしれません。AさんとBさんがグルになって方法の分担をしたような場合などです。
近年の発明は、複数人が関わるシステムの発明や、製造(方法の発明の実施)の分業・分社が進んでいたりするので、そのような問題は今後発生しそうです。
まぁ、クレームの書き方の問題だというのもありますが、そこにはあまり触れません。
方法の発明についての一部工程を実施する者や、システム発明の一部を担う者に対して、なお、侵害を問い得る理論として、共同侵害、支配管理論、道具理論等があります(均等論を用いるという説もあります。)。
これらは、判例上確立されている理論はなく(なお、著作権法の分野では、カラオケ法理という理論はありますが)、特許の分野では、一部そのような理屈を示した裁判例が見られるだけで、まだ、学説として色々検討されているレベルです。
これらの理論は、前述のように、主に、物の発明のうち、システムの発明(サーバ・クライアント型システムなど)や方法の発明で問題となり得ますが、次回詳しく紹介したいと思います。
最後に
方法の発明の間接侵害について説明しました。
まず、勘違いしやすいのですが、重要な工程の一部実施が、間接侵害にあたるわけではありません。
方法の発明における間接侵害は、「その方法の使用に用いる物」がのみ品であったり、不可欠品であったりする場合に問題となるのです。
方法の発明の前半工程を実施する場合、直接侵害も間接侵害も問われません。
もっとも、前半工程の実施により中間生成物が生じた場合には、間接侵害を問われ得るという考え方があるので一応注意です。
方法の発明の後半工程を実施する場合、製造方法の発明であれば、その方法により生じた完成品について、直接侵害を問われます。
一方で、単純方法の発明であれば、原則として直接侵害も、間接侵害も問われません。
しかし、複数人が、グルになって、方法の発明やシステム発明の分担をした場合等には、どちらか、あるいは、両方に責任が問われるべき場合もありそうですが、そのための理論については、次回ご紹介したいと思います。