はじめに
今回は、人の自転車を勝手に乗った場合に、犯罪(窃盗罪 or 占有離脱物横領罪)とかにならないのか?について記事にしたいと思います。
使用窃盗は、無罪
ロースクールで、刑法を勉強すると、「使用窃盗」は犯罪(窃盗)ではない」と習います。
最初は、ん?って感じですよね。
簡単にいうと、人の物をちょっと勝手に使っただけでは窃盗罪は成立しない、ということです。
よく、手元に鉛筆が無かったときなどに、他人の机に置いてある鉛筆を数秒拝借してすぐ返したりしますよね。あれ、窃盗が成立しない、という意味です。
しかし、放置自転車をちょっと乗り回した事案で、占有離脱物横領罪の成否が問題となりました。
ちなみに、「他人の物」であると明確な場合は窃盗罪ですが、だれの所有(正確には占有か)明確ではない場合は、占有離脱物横領罪が問題になります。
占有離脱物横領罪の場合も窃盗罪と同じですが、ちょっと使っただけですぐに返却したら、占有離脱物横領罪も成立しないということになります。
法律的には、「他人の所有を排除する意思」があったか無かったかが有罪・無罪の境目(判断基準・評価基準)になりますが、実際には判断が難しい場合もあります。
たとえば、先の例のように、人の机にあった鉛筆を勝手に数秒使い、すぐに元のところに戻したら、これは窃盗罪は成立しません。「他人の所有を排除する意思」までは認められないからです。
一方で、人の自転車を1年間無断で使って、しかも、その間、元のところに返却せずに、自分の家に保管していたら、これはもはや「他人の所有を排除する意思」があったと客観的に認められる状況なので、いくら返すつもりだったと弁解しても、窃盗罪(or占有離脱物横領罪)が成立してしまいます。
この2つの例は極端な例なので分かりやすいですが、その中間にある微妙な事例だと、窃盗罪(or占有離脱物横領罪)が成立して有罪か、あるいは、使用窃盗として無罪かの判断が難しくなります。
いずれにしても、客観的事情から、「他人の所有を排除する意思」があったか否かを評価し、判断します。
上記の事案では、ニュースの記事でしかその具体的な事件の内容は分かりませんが、被告人は、野宿生活者だったそうで、自転車が放置されていた場所とそこから650メートル離れた公園との間を、2日間で、1時間満たない時間、放置自転車に乗り、そのうち1回は元の場所に戻した、という事案だそうです。
確かに、人の(誰のか分からない)自転車を勝手に使うのは不適切な行為ではありますが、上記事実関係の下で、判断基準である「他人の所有を排除する意思」がなかったとして、裁判では無罪となったようです。
でも、その方は無罪にも関わらず、133日間も身体拘束(逮捕・勾留)されていたのですね。
記事には、野宿生活者とあったので、住所不定だと、勾留要件に該当し、当然のように勾留されてしまうのが現状です。
刑事補償請求
それで、今日のニュースで、その男性が、刑事補償請求をしたという下記のニュースがありました。
133日間の不当な身体拘束に対し、刑事補償法に基づいて、補償金(金銭)を要求できるのです。
まぁ、無罪なのに身体拘束されたのですから、当然ですよね。
しかし、1日あたり最大で1万2500円しか交付されないようです。今回の件では、最高額で請求していますが、実際いくら認められるか分かりません。
でも、ちょっと安すぎません?
最後に
窃盗というのは、盗んだのか、盗んでいないのか、という2択のように明らかな感じがしますが、こういった人の物を勝手に使用した事例の場合、つまり、客観的状況に照らし、「他人の所有を排除する意思」があったかなかったかを評価する事案となると、犯罪の成否が微妙になったりします。
こういう事例だと、たいがいは逮捕まではされないはずですが、今回のように、野宿生活者だったりすると、警察が、使用回数とか使用時間とか、ちゃんと捜査・取調べせずに、起訴してしまったのかもしれません。
それにしても、刑事補償が1日あたり最大で1万2500円というのは安すぎませんか?
時給にすると(24で割ると)、わずか約520円ですよ。