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特許実務-進歩性の基本的考え方(6)

はじめに

 

 今回は、進歩性の基本的考え方(6)として、「課題の共通性」とは?課題の概念レベル)をテーマとして、進歩性について考えてみたいと思います。

 

 前回までの記事は、以下のとおりです。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

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「課題の共通性」

 

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「課題の共通性」とは?-「課題」の概念レベル

 

 たとえば、主引用文献の発明(乗り物)が推進力向上を図るという課題だとします。

 また、副引用文献の発明(乗り物)も、推進力向上を図るという課題だとします。

 そうすると、主引用発明と副引用発明とは、推進力向上を図るという課題を有する点で共通しており、課題の共通性が認められる、となりそうです。

 

「課題の共通性」の概念レベル

 

 しかし、たとえば、各引用文献をよくよく読んでみると、

 実は、主引用発明が、軽量化による推進力向上を図るという課題を有しており、

 他方、副引用発明は、形状の工夫による推進力向上を図るという課題だとすると、

両者の課題を、下位概念で(=より具体的に)捉えると、課題が異なるという結論にもなりそうです。

 

 ここで言いたいことは、「課題の共通性」と言っても、どのくらいの概念のレベルで(=どのくらい具体的に)課題が共通しているのかを適切に把握することが必要である、ということです。

 

 これは、課題の共通性の強弱であり、ひいては、組合せの容易性(進歩性の有無)に関わります。

 課題の共通性は、単に、あるかないか(〇か×か)ではなく、強さ(程度)の問題なのです。

 

 つまり、進歩性を否定する(組み合わせが容易である)方向に働く要素として、課題の共通性を考える場合でも、下位概念(たとえば、軽量化による推進力向上)で課題が共通するの方が、その共通性は強く、

    他方、上位概念(たとえば、単なる推進力向上)でしか課題の共通性と捉えられない場合には、その共通性は弱いということになり、進歩性の有無(組み合わせの容易性の有無)に影響を及ぼしてくることになります。

 

 ちょっと語弊がある言い方かもしれませんが、審査官・審判官・裁判官のような進歩性の判断者は、微妙な事案の場合は、結論として、組合せ容易(進歩性なし)と判断したいのであれば、課題については上位概念のレベルで捉えて、共通すると判断し、逆に、組合せ困難(進歩性あり)と判断したいのであれば、課題については下位概念のレベルで捉えて、共通しないとできてしまいますね。

 

 下記記事の進歩性の判断の考え方(2)の第3項目で、「判断者(裁判所、審判官、審査官)は、進歩性の判断をどちらにも転がすことができる。」としたのは、この点を意味しています。

  動機付け要素を捉えるレベルによって、進歩性を肯定する方向にも否定する方向にも持っていける場合があるということです。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 更に余談ですが、いくつかの動機付け要素のうち、どの動機付け要素を重視するかも同様で、結論をどちらにも転がすことができる場合があります。 

 

 たとえば、一昔前の機械分野の審査官の中には、技術分野が一致してさえいれば、だいたいの公知文献は簡単に組み合わせてしまい、進歩性なしとして拒絶していましたよね(笑)。

 今は、審査基準上も様々な動機付け要素を考慮すべきとされていますし、統計上も、特許査定率も上がっていますし、そういいったことはきっとないんでしょうけど。

 

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「課題の共通性」の概念レベル(イメージ)

 

 上のスライドは、これまでご説明したことを模式的に表現した図です。

 右図のように、引用文献における強度の向上という課題を捉えるとしても、

 

 (1)上位概念(抽象的): 強度の向上

 (2)下位概念(具体的): 表面強度の向上

 (3)更に下位概念(より具体的):表面被膜(or 焼き入れ)による表面強度の向上

 

というように、下に行けば行くほど、より具体的な課題が共通することになり、進歩性を否定する課題の共通性としては強く働きます。

 

最後に

 

 今回は課題を例に挙げましたが、この点は、課題に限らず、他の動機付け要素である技術分野、作用・昨日、示唆、阻害要因、効果の予測可能性も同様に考えられます

 

 技術分野でも、抽象的に捉えるか、具体的に捉えるかで、関連性があるともないとも言えますよね。

 

 特許クリアランスの観点からは、上のスライドの左図の真ん中に記述したように、

 

 「各引用文献に共通する課題を、どこまで具体的に捉えられるのか?

 

を適切に把握し、課題の共通性の強さ(程度)を見極めます。

 

 他の動機付け要素も同様に、その共通性・関連性の強さ(程度)を見極めます。

 

 そして、これらを総合的に勘案して、進歩性欠如の無効理由が強いか否かの判断をすることになります。

 

 今回、課題の共通性と言っても、本件特許発明との課題の関係には触れませんでした。これは、今後のテーマになります。

 引用発明同士の課題の共通性だけをとってもややこしいのに、さらに本件特許発明の課題をも考慮すると、進歩性判断のパラメータが多すぎて、もはや手に負えなくなりますね。 

 

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