はじめに
今回は、下記記事の窃盗の刑事事件についてご紹介したいと思います。
被疑者(以下分かりやすく「犯人」といいます。)が、早朝、他人の郵便受けから朝刊とスポーツ紙を盗んだという窃盗の疑いで逮捕されたそうです。
犯人は、
「返せばいいだろう」
と話したのに対し、警察官は
「そういう問題ではない」
と諭したというやりとりが書かれています。
窃盗罪は成立しない?
他人の新聞を盗ることが窃盗罪にあたるということは間違いないのですが、警察官に見つかってしまっており、結局、新聞を盗れなかったことになるので、窃盗が成立しなかったり、あるいは、そこまでいかなくても「未遂」になるでしょうか?
窃盗がいつ既遂(=完成する)かについては、大学やロースクールの刑法の授業とかで習うのですが、
他人の占有を排し、自分に占有を移した時点
とされています(記憶を薄れてきていますが、確か)。
なにやら小難しい表現ですが、要するに、物を自分の支配下におさめたときです。
エコバッグ万引きの例
たとえば、以前にエコバッグ万引きについて記事に書きました。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
プラスチックバッグが有料なったことに伴い、エコバッグ持参で買い物をするのは良いのですが、そのような状況につけこみ、エコバッグで万引きをすることが多発しているというお話でした。
この場合は、エコバックに入れた時点で、窃盗は完成(既遂)になるので、
「やっぱり、盗んだらダメだよね。」
と思って戻しても、もう取返しがつかず、(未遂ではなく)窃盗既遂罪が成立します。
いや、よく、万引きGメンは、犯人が店を出たところで声をかけるから、店を出た時点で、窃盗は完成(既遂)なのでは?と思われるかもしれません。
しかし、一般的には、エコバッグとかポケットとかに品物を入れた時点(自らの支配下におさめた時点)で、窃盗罪は成立すると一般的には解されています。
万引きGメンが、犯人が店を出たところで声をかけるのは、その時点では、もはや犯人が合理的な言い訳ができなくなるからです。
犯人が品物をエコバッグとかに入れ、まだ店の中にいる間に声をかけてしまうと、
「いや、買うつもりだった。」
とか、色々と言い訳されてしまうからです。
会計前に商品を食べたしまった例
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
これは、お腹に入れてしまえば、まさに、自らの支配下(おなか)におさめたといえるので、窃盗既遂でしょう。
「後でお金を買う予定だった」
といってもダメですしょうね。
本件(新聞の窃盗)の例
この場合は、店の中とは違い、早朝ということもあって人影もないでしょうし、他人の郵便受けから、新聞を自分の手にとってしまえば、(たとえ、自分のバッグに入れなくても、)通常は、もはや何の障害もありませんから、自分の支配下におさめたも同然でしょう。
ですので、手に取った時点で既遂と思われます。
通常は、もはや何も障害がないはずなのですが、本件では同様の被害が10件以上あったそうで、警察官が警戒にあたっていたのかもしれませんね。
本件とは異なり、犯人がまさに郵便受けから新聞を抜き取ろうとした時点で、警察官に声をかけられて、新聞を盗めなかったのであれば、未遂になり得ます。
しかし、新聞を抜き取ってしまった後で警察官に声をかけられても、もはや既遂です。
犯人が、
「返せばいいだろう」
というのは、「返せば窃盗にならないだろう?」という甘い考え方での発言だったのかもしれませんが、警察官の
「そういう問題ではない」
というのは、
「いやいや、あなた、新聞手に持ってますよね、もう窃盗の既遂ですよ。
返せば、窃盗が成立しないとか、未遂になるとかありませんから・・・。残念!」
という趣旨だと思われます。
最後に
昔、ある被告人が、スーパーのカゴに一杯物を入れて店を出て、自分の車に積み込もうとしたところで捕まった事件で、被告人から、何とか窃盗既遂ではなく、未遂を主張できないかと相談されたことを思い出しました。
一時的に、〇〇の事情で自車に赴いただけであり、店に戻って会計をする予定だったなどと主張することは、んー、どんな特殊な状況があろうと、ちょっと無理でしょうね。
では、自車ではなく、店のトイレなら何とかなったか、んー、そもそもトイレに商品を持ち込んではいけません!ので、無理かもしれません。