はじめに
今回は、「被告人の親は、自分を責めるべきか?」というタイトルの記事を書きたいと思います。
ご両親の協力
一般的な自白事件(=被告人が罪を認めている事件)の場合、裁判に臨むにあたって重要なのは、被害者がいる場合の示談はもちろんですが、あらゆる事件に共通して、被告人自身が反省し、更生へ向けて具体的な行動を示すことです。
更に、その更生を手助けする身元引受人(監督者)として、被告人のご両親(あるいは父・母のいずれか)に協力を頂くことが非常に多いです。
(慣れないことですし、辛いとは思いますが、)裁判(公判)に来て証言台に立ってもらい、被告人を今後、指導・監督して頂くことを誓約してもらったりします。
仕事などでどうしても裁判に出席できない場合でも、「被告人を今後、指導・監督する」旨の身元引受書を、事前に作成して頂き、裁判所に提出したりします。
ご両親の対応
事前に、被告人のご両親(典型的には母親)と電話で連絡をとったりすると、ほとんどの場合、相当に悩まれて、
「私の教育が悪かったからでしょうか・・・。これからどうしたらいいいか、分かりません。」
と言った発言でご自分を責めたり、あるいは、裁判で証言をして頂いた後に、終わってから、同様に、
「私の教育が悪かったからでしょうか・・・。これからどうしたらいいいか、分かりません。」
とおっしゃって、泣き崩れる方も多いです。
ご両親への回答
私は、教育の専門家ではありませんし、被告人が犯罪に至ってしまったことについて、ご両親にどれだけの責任があるのかは、事情もある程度しか分かりませんので答えられません。
しかし、黙っているわけにも行きませんので、いつも以下のように答えるようにしています。
「ご自身を責めないようにしましょう。それは偶々、悪い友達を作ってしまったからかもしれませんし、ご両親の知らない様々な悪影響があったのかもしれません。」
「また、お子様(被告人)を過度に責めるのも止めましょう。ご両親の元から去ってしまい、ますます悪い道へ進んでしまうかもしれません。」
<たとえば、薬物使用の場合>
「 薬物の使用などは、病気になってしまったのだと思ってください。
しかも、薬物の誘惑に自分の意志では抗えない依存性のある怖い病気です。
『お子さんが悪いことをした。』と思うのではなく、不運な悪環境の下で、
病気になってしまったのだと考えてください。その悪い環境というのは、
必ずしもご両親のせいではありません。ご両親の知らないところで、あるいは、
手の届かないところで、お子さんの周りに悪い環境ができてしまったのです。
更生するというのは、治療するのと同じです。薬物治療のお医者さん、
ダルクなどの施設に頼りましょう。
依存性がある以上、1人にしておくと、また薬物に手を出してしまいます。
24時間とはいかないまでも、なるべく誰かが見ていなければなりません。
是非、ご両親にその役割をお願いしたいと思います。被告人と同居してください。
放っておくと、また、自然と薬物に向かってしまいます。依存性がありますから。
ご自身の子どもは悪い病気にかかってしまった。なので、ずっと見守る必要
があるのです。幸い、お子様には、ご両親がいらっしゃいます。独り身だとしたら
どうしようもないのです。そういう意味で、お子様は、ご両親がいるというだけで
も大変な幸運です。しかも、こうやって、裁判にまで来てくれたわけですから。
お子様の年齢は(30代でも40代でも)関係ありません。子どもであることは
一生変わりはありませんから、ずっと見守ってあげてください。」
窃盗の場合も、ほぼ同様です。
要するに、ご自身の教育の仕方などを責めるご両親に対しては、そうではなく、不運にも、悪い環境に身を置いてしまったお子様(被告人)が、犯罪という病気にかかってしまった。
だから、治療(更生)が必要で、それには、ご両親の協力が必要である。
そんな感じで、泣き崩れたのを何とか立ち直ってもらいます。
過去(教育)を責めるのではなく、未来(更生=治療)を見てもらうのです。
過去も、未来も、親子関係は変わりませんからね。
最後に
まぁ、両親にお願いしても、「もう、勘当だ!」、「二度と会いたくない」と被告人と断絶を宣言する方は多いです。
それに比べると、身元引受人として一筆書いてくれたり、ましてや、法廷にまで来て泣いてくれるご両親がいることは、それだけで相当に幸せなことです。
犯罪をしてしまった後には、何より、家族のサポートが一番大事です。
特に、薬物事犯や、万引きといった、繰り返し犯してしまう類型の犯罪の場合は、そう言えると思います。