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刑事事件-警察官による「やらせ」(犯罪の作出)について

はじめに

 

  今回は、下記の記事について取り上げたいと思います。

 

news.yahoo.co.jp

 

事案

 

 記事によれば、ある巡査部長が、交番勤務だったときに、知人男性に覚醒剤が付着したビニール袋を準備させ、岡崎市内で職務質問を受けるように依頼した上、自ら職務質問し、覚醒剤取締法違反の疑いで検挙したとするウソの報告書を作成した疑いと、自宅に覚醒剤の付いたビニール袋を所持した疑いだそうです。

 いわゆる「やらせ」でしょうか。

 本人は、否定しているようです。

 

 この記事によれば、その動機としては、実績・成績を上げるという出世目的の可能性が考えられると解説されています。

 

 以前に、私も、警察官の実績・成績・出世に、事件の検挙率が関係するということは聞いたことがありました。

 

警察官といえども普通の人なので

 

 警察官は、その職業に就くこと自体、尊敬すべき素晴らしい方々が多いと思います。

 自分の命の危険を顧みずに、犯人に相対するわけですからね。私には到底できません。

 

 一方で、本件は別として、一般的に、警察官も人間なので、犯罪をしてしまう人もいますし、本件が真実かどうかはともかく、出世のために、犯罪を作出してしまう人もいるかもしれません。

 

 別に警察官に限ったことではありません。

 弁護士だって、(一般には立派な職業とされ、)自由と正義のために戦う、とか言っても、お客さんから預かったお金を横領して、逮捕されたりする人いますしね。

 

 職業や社会的身分に限らず、自ら不当な利益を得る等の動機で、犯罪に手を染めてしまう人はいるものです。

 

警察官はおよそ犯罪行為をしない?

 

 前述のとおり、警察官も、弁護士も、裁判官や検察官だって、およそ犯罪をしないということは断言できないわけです

 人ですから。

 

 ここで、私が、以前に控訴審で担当したある公務執行妨害事件について、少しご紹介したいと思います(特定されないように、少し、事案を変更しています。)。

 

 簡単に言うと、非常にガタイのよい被告人が、酔っぱらって、警察官に暴行をはたらいたとされる事件です。

 

 被告人の主張は、酔っていたことは認めるものの、複数の警察官に取り囲まれた際、後ろにいた警察官にヘッドロックのような感じで首を絞められ、苦しくて、反射的に足が出てしまい、前にいた警察官を蹴ってしまった、だから暴行の故意(意図的に蹴ったわけではない)、公務執行妨害罪は成立しない、というものです。

 

 警察官側は、これを否定。

 

 私は、弁護人ですから、被告人の主張を前提に、複数の警察官の証言を読んで、被告人のおっしゃっていることが真実だという主張を組み立てます。

 

 ガタイの良い酔っぱらった被告人を静止すべく、その過程において、(ヘッドロックなど)行き過ぎた行為をしてしまうことは決してないとは言えません。

 

 控訴審では、一審判決の妥当性を検証して、一審判決の判断が誤っている等を具体的に主張します。

 

 しかし、一審判決を読んで愕然としました。

 

 「・・・任意捜査中に事実関係者の首を後ろから絞める

  こと自体,警察官の行為としておよそ考えられず

 

 弁護士になって、一番衝撃的な判決内容でした。もし、私、一審の弁護人だったら、判決を読み上げている途中で、立ち上がって、裁判官に「おいおい!」って止めてしまいそうです

 実際には、しないでしょうが・・・。でも、判決前に仮に(仮にですよ)ビールを1杯飲んでたら、多分してしまいます(笑)。それくらい衝撃です。

 

 後ろにいた警察官が被告人にヘッドロックしたか否かは、被告人が前に居た警察官を蹴ったか否かの前提となる、この事件の重要な争点です。

 

 それにも関わらず、第一審は、

 

 「警察官は、およそ違法行為をしない!」

 

旨の判断です。突っ込みとしては、「世間知らずか!」、「小学生か!」「それを言っちゃぁ、おしまいだよ。」といったところでしょうか。

 

 その点以外にも、首を絞めたとされる当の警察官の証人尋問を認めなかったことや、判決文に誤記が散見されるなど、めちゃくちゃな一審判決だったので、控訴趣意書(控訴審での弁護人の主張)で、一審の不当性についてボロクソ書きました。

 

 結局、控訴棄却で一審の判断は覆りませんでしたが、それでも、

 

 「・・・,最初から警察官に違法行為があるとは考えられないと断ずるかのような

  原判決の説示は不適切である。しかし、・・・原判決の説示が不適切であるからと

  いって,判決に影響を及ぼす誤りがあるとまではいえない。」

 

と言ってくれました。

 言い方は「不適切」と丁寧ですが、私と内心は同じだったと思います。同じ裁判官だから、私以上に怒っていたかもしれません。

 いずれにしても、珍しく明示的に一審の上記判示を否定してくれました。ホッしましたよ。

 でも、結論には影響しないとして、負けましたが。

 

 まぁ、一審は、実は、「地裁判決」ではありません。法曹にはこれの意味がわかると思いますが、これ以上はあまり言わないようにしておきます。

 

最後に

 

 最初に取り上げた記事を題材に、私が担当した控訴審事件について、その前提となる余りにも不当な一審判決を紹介しました。

 

 あんまり、他者の批判は書きたくはないのですが、余りに度を過ぎると、私も人間なので、カッとしてしまいます。ご紹介した事件は、随分前の事件ですけどね。

 

 念のため、警察官は素晴らしい方ばかりです。弁護士も、警察官ほどではありませんが、素晴らしい方ばかりです。

 

 もちろん、多くの裁判官は、たとえ自分が負かされた事件でも、説得的な素晴らしい判示をする方が多いです。

 

 多分、検察官も「仕事熱心な」良い人が多いのだろうと思います。

 

 しかし、どの職業の方も、全員が全員、良い人なわけではありません。

 

 私も、「それでも、弁護士か?」と言われないように、精進(✖消尽)したいと思います。

 

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