はじめに
前2回に分けて、間接侵害と特許保証について説明しました。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
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具体的には、ある会社が、他社へ部品を供給したり、他社から供給を受けたりする場合で、自社での特許クリアランスが十分に行えない状況において、間接侵害や直接侵害のおそれがある場合に備えて、相手方に特許保証(=第三者の特許権等を侵害した場合の保証)を要求するための特約(=契約での取り決め)についての記事でした。
今回は、そもそも、部品供給契約等において、特許保証の定めがなかった場合に、どのような事態なるか(なお、救済されるか)について説明したいと思います。
特許保証がない場合
本来は、第三者の特許権等の侵害リスクに備えて、あらためて、特許保証を含めた契約をすべきですが、様々な事情で、特許保証を得られていない状況が考えられます。
たとえば、昔からの取引基本契約のみで売買がなされており、今更あらためて契約を締結することがないなど、特許保証がない場合が考えられます。
この場合は、一切、特許保証が得られないことになるでしょうか?
必ずしもそうではありません。契約に規定がない場合には、民法や商法の規定に戻って考える必要があります。
民法、商法の規定
・・・と言いたいところなのですが、4月からの民法改正の施行により、契約不適合責任という名称になり、ちょっと変わっています。
法の改正というのは、弁護士にとっては恐ろしいことです。ずーっとキャッチアップしていかなければならないのですから・・・。
そうはいっても、実質的に大きく変わるものではなく、売買の目的物に瑕疵がある場合(契約内容に不適合な目的物の場合)に責任を追及するための制度です。
「第三者の特許権等を侵害している、ひどい目的物を売りやがって!」
という感じで、目的物に瑕疵(欠陥)がある場合に責任を問うのです。
もっとも、たとえば、リンゴの表面が少し腐っていたなどとった(目に見えるような)「物理的な瑕疵」ではなく、「法律的瑕疵」に該当します。
しかし、このような「法律的瑕疵」も契約不適合責任における「瑕疵」に該当し得ます。
ですので、買主は、売主に対して、この契約不適合責任の要件を満たせば、責任を追及することができます(民法562条以下)。
具体的には、
①「ちゃんとしたの(侵害品ではないもの)を持ってこい!」(追完)、
②「まけろ!」(代金減額)
③「もう、おまえとは取引をやめる!」(解除)
④「金払え!」(損害賠償)
といった請求をすることができます。
契約不適合責任の問題点
それでは、契約で特許保証を取り決めなくても、民法で契約不適合責任を追及すれば足りるのではないか、というと、必ずしもそうではありません。
結構、致命的な問題があります。
まずは、以下の民法の規定を見てください。
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知った時から1年以内に売り主に通知をすることを求めています。
「まぁ、1年もあれば大丈夫じゃない」、と思うかもしれませんが、企業同士(商人間)の場合には、商法の規定が適用されることを忘れてはいけません。
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要するに、
・買主は、目的物を受領後、直ちに検査しなければならない。
・瑕疵(内容不適合)を発見した場合は、直ちに、売主に通知しなければならない。
・検査ですぐに発見できない瑕疵(内容不適合)の場合は、受領後6か月以内に通知
しなければならない。
侵害品(第三者の特許権を侵害するような目的物)が売買の目的物の場合、先に述べた物理的な瑕疵(リンゴが一部腐っているなど)とは違い、検査ですぐく発見できません。
ですので、上の3番目の場合、つまり、受領後6か月以内に通知することが、要件になります。
しかし、特許権侵害の事実は、なかなか、納品後6か月で判明しませんよね。
むしろ、警告状をもらって、特許権侵害の事実を知ったときには、既に納品から6か月が過ぎているということの方が普通だと思われます。
ということで、この商法526条2項の厳しい期間制限により、実質的に、契約不適合責任を問うのが難しくなっています。
翻って、古い取引基本契約などに、特許保証の規定自体がなくても、(改正前の民法に習い)瑕疵担保責任の規定はあるかもしれません。その契約で、瑕疵担保責任のためのより長い期間が設定されていればよいのですが、実際には、おそらく、前述の商法の規定(6か月)と大差ないかもしれません。あるいは、3か月と更に短くなってしまっているかもしれません。
最後に
ということで、結局のところ、特許保証規定は、できれば、契約にちゃんと規定しておいた方が良いということになります。
(契約は相手のあることなので、こちらの都合の良いことばかりを書くことができるわけではありませんが、)売買の目的物が第三者の特許権を侵害しているとう不測の事態に備え、相手方からの保証を確保しておきたいところです。