はじめに
これまで全4回にわたり、間接侵害と特許クリアランス(その1)~(その4)というタイトルで、判断が難しい間接侵害(複数主体による特許発明の実施の場合を含む)について、特許クリアランスの観点から、重要なポイントを解説しました。
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今回は、そうは言っても、
① 部品等(部材、モジュール等)を他社に供給したり、逆に、
② 他社から供給を受けたりする場合に、
他社あるいは貴社による(部品を組み込んだ)完成品の製造・販売等が、直接侵害になってしまう可能性があり得ます。
しかし、
① 他社からの供給を受けた部品等の具体的な構成や、
② 貴社が提供した部品等で、他社がどのような完成品を製造販売するのかは、
他社の秘密情報を含む場合も多く、貴社のみでその判断をするのが難しい場合があります。
だからといって、不用意に他社の供給部品等について秘密情報を受けるのも、かえってビジネスを阻害しかねません。
そこで、思わぬ直接侵害に備えて、部品供給契約等において、他社に特許保証(=第三者の特許権等を侵害した場合の責任と費用の分担)をしてもらうということが考えられます。
部品供給側における特許保証規定のポイント
今回は、部品供給側における特許保証規定のポイントをご説明したいと思います。
まず、はじめに、部品供給側としては、その部品を組み込んで契約相手方が完成品を製造・販売し、第三者から 特許権侵害で訴えられる場合を考えると、できる限り特許保証の範囲を限定したいということになります。
「あとのことは知りません!」
といえれば一番良いですね。
一切保証しない
このように、究極的には、「一切保証しません!」というのが理想ですが、契約当事者間の力関係もありますし、相手方当事者からすれば不測の事態に備えて、保証してもらいたいわけで、どこかで折り合いをつける必要があります。
部品そのものについてだけ保証
そこで、契約相手方に対し、部品そのものについてだけ保証するという形で責任を制限することが考えられます。
この場合、「対象部品に起因して」、「対象部品に基づく」、「対象製品に関連し得」等としてしまうと、「対象製品」は何らかの形で直接侵害に関連してしまうと、保証せざるを得なくなってしまいますので、
たとえば、保証の範囲の文言として、
「(専ら)対象部品のみに起因して」
とすることで、特許権侵害のポイント(本質的な部分)が対象部品のみである場合だけに限定して保証するということが考えられます。
除外事由
そうはいっても、一般的に特許保証せざるを得ない場合であっても、除外項目を列挙することで、保証の範囲を限定することも考えられます。
たとえば、
① 相手方が部品を変更した場合や、提供部材・材料から新たな製品を製造した場合
② 部品を他の部品と組み合わせた場合
③ 相手方の使用要求、設計指示による場合
④ (部品の目的を限定した上での)目的外利用
⑤ こちらに帰責事由がない場合
などなどです。
契約交渉段階において、部品の特性に応じて、除外事由を入れ込むことが重要となります。
情報の開示を求めるための規定
部品供給側としてある程度、特許保証をせざるを得ない場合であっても、紛争対応等が生じた場合に備え、完成品(=直接侵害品)を製造販売する契約相手方に、当該完成品(組み合わせ品など)に関する(技術)情報の開示を要求できた方が好ましいです。
ですので、必要に応じて、(技術)情報の開示を要求できる条項を入れることが考えられます。
もっとも、契約時点で、将来の紛争に備えて、相手方当事者のその部品の使われ方や組み合わされる他の部品についてのあらゆる情報を取得しておくというのは、そもそも秘密情報として相手方が拒否するでしょうし、下手に他社の秘密情報を保持することは、貴社の研究開発を縛ることにもなりかねませんので、好ましくありません。
紛争が生じた場合に、(完成品メーカーである)相手方から、直ちに、直接侵害品に関する必要な情報を取得できるように手当しておくというのが重要です。
責任範囲の限定
また、特許保証するとしても、責任の範囲、たとえば、賠償額の上限や、特許保証の対象となる国(たとえば日本のみなど)や地域を限定するということも考えられます。
最後に
以上ご説明した、部品供給側に立った場合の特許保証規定のポイントを下記スライドにまとめました。
次回は、部品受領側(完成品メーカー)の立場での特許保証規定のポイントについてご説明する予定です。