はじめに
タトゥー掘り師が、客にタトゥーを入れたとして、医師法違反の罪(刑事事件)に問われていた事件で、最高裁で、無罪が確定したそうです。
ちなみに、
一審(地裁)で「有罪」 → 二審(高裁)で「無罪」 → 最高裁で「無罪」
でした。
最高裁の判断の内容
最高裁の判旨を読みました。
医者が独占すべき「医行為」とは何か、という解釈が問題となっています。
① 「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」
という解釈(検察、一審の解釈)をとると、
→タトゥーを入れることは、これに該当し、有罪。
② 「医療及び保健指導に属する行為の中で、
医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」
という解釈(二審、最高裁の解釈)をとると、
→タトゥー彫りは、「医療及び保健指導に属する行為」に該当せず、無罪。
最高裁の「医行為にあたるか否かの判断基準は、
「ある行為が医行為に当たるか否かについては,当該行為の方法や作用のみならず,
その目的,行為者と相手方との関係,当該行為が行われる際の具体的な状況,
実情や社会における受け止め方等をも考慮した上で,社会通念に照らして判断する
のが相当である。」(下線、赤は私。)
でした。総合考慮ですね。
最高裁の「あてはめ」(本件ではどうか)は、
「被告人の行為は,彫り師である被告人が相手方の依頼に基づいて行ったタトゥー施
術行為であるところ,タトゥー施術行為は,装飾的ないし象徴的な要素や美術的な
意義がある社会的な風俗として受け止められてきたものであって,医療及び保健指
導に属する行為とは考えられてこなかったものである。また,タトゥー施術行為
は,医学とは異質の美術等に関する知識及び技能を要する行為であって,医師免許
取得過程等でこれらの知識及び技能を習得することは予定されておらず,歴史的に
も,長年にわたり医師免許を有しない彫り師が行ってきた実情があり,医師が独占
して行う事態は想定し難い。このような事情の下では,被告人の行為は,社会通念
に照らして,医療及び保健指導に属する行為であるとは認め難く,医行為には当た
らないというべきである。」(下線、赤字は、私が入れました。)
です。
検察、裁判所には、歴史的な文化を抹消する力がある
検察や一審裁判所は、事実上、一つの日本の文化を抹消しようとするところでした。
実際、医師免許がないと彫り師ができないとなると、(彫り師をやるために医師免許をとったり、逆に、医師が、彫り師になったりすることはほとんど想定されないので)事実上、タトゥー彫り師は居なくなりますからね。
一つの文化を抹消することができるなんて、すごい権力ですよね。恐ろしい。
大阪高裁や最高裁が、文化の重要性を認識し、無罪としたのにはホッとしました。
なお、最高裁は、
「タトゥー施術行為に伴う保健衛生上の危険については,医師に独占的に行わせる
こと以外の方法により防止するほかない。」
ということで、タトゥーの施術に身体への危険性があることは確かなので、業界の自主規制や行政による規制により対処すべき問題としました。
最後に
弁護団は、一つの文化を守るために尽力されました。
素晴らしい。そして、良かったです。
ちなみに、日本では、タトゥーって、反社会的勢力(映画)のイメージがあって嫌悪感を持つ方が多いのは確かです。
でも、私、ドイツに留学して、店員さんの腕には普通にタトゥーがあり、普通の若い女の子とかがタトゥーを入れているのをたくさん見かけました。
タトゥーについて聞いたこともありました。
「私、カメラが好きなので、カメラのタトゥーを入れたの。素敵でしょ?」
という感じでした。
タトゥーのお店も、街中に普通にありました。ネイルサロン的な感じです。
来年は東京でオリンピックがあるのですよね。大阪万博もありますよね。外国から多分たくさんタトゥーを入れた普通の観光客がやって来ます。
そのような方々に対して、
「日本では、タトゥーの施術は医療行為だから、彫り師がタトゥーを施術すると、
刑事事件になるんですよ。
(外国では違法ではないとしても)日本では、あなたは、犯罪者に施術された
人っていう評価(見方)をされてしまう可能性もあるのですよ。」
と言えるでしょうか?
最高裁の判断、というか良心に、あらためてホッとしました。
そういえば、小学校のときによく食べた鯨のベーコンが急に食べたくなりました。
(捕鯨も日本文化でしたね。)