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特許実務-審査官、審判官、裁判官の違い

 

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審査官、審判官、裁判官の違い

 

はじめに

 

今回は、特許権に関する判断者である、特許審査官特許審判官、(知財部の)裁判官の違いについて説明したいと思います。

 

特許審査官

 

特許審査官は、行政処分(特許査定、拒絶査定)をする行政官(行政庁)です。

 

行政官にとって最も大事なことは、特許審査官に限らず、(どの行政官でも同じ判断をするという意味において、)統一的・画一的な判断をすることが求められています

 

したがって、審査基準(=行政処分のためのガイドライン)というものが設けられており、審査官は、それに従って、判断することになります。

 

また、特許審査官は、技術的なバックグラウンドを持っており、かつ、入庁後は特定の技術分野において、大量の先行技術文献調査をし、審査をしますので、自ずと、特定の技術分野に非常に詳しくなり、当該分野における相場観を身に付けています。

したがって、どちらかと言えば、経験的・直感的に、特許にすべきかどうかの感覚を持った上で、自分の判断が正しいことを根拠づける先行文献を提示します

 

一昔前は、

 

「俺が拒絶だと思ったら、引用文献なんか提示しなくても、拒絶査定するんだ。理屈もいらん。」

 

とおっしゃっているベテランの審査官がいらっしゃいました(笑)。

 

しかし、拒絶査定は行政処分である以上、理由はちゃんと付さなければいけませんし、根拠となる引用文献も提示すべきですね。

 

今の審査官は、根拠となる引用文献を挙げ、拒絶の理由もきちんと書いている方がほとんどだと思います。(理由が不十分と思われるものは、時々散見されますが。)

 

裁判官

 

これに対して、知財部の裁判官は、一般的には技術系のバックグラウンドを持っておらず(一部、理系の方もいらっしゃいます。)、法学部出身の方が多いと思います。

 

しかも、(審査官の審査件数に比べれば、)扱う特許紛争は圧倒的に数が限られていますので、ある特許権に関する技術的な内容は、初めてで取り扱うことも多いと思います。

特許発明に関する技術的なサポートは、(特許庁から一旦退職して裁判所に来ている)裁判所調査官がサポートします(また、彼らはまた特許庁に復帰しますが)。

 

裁判官は、審査官のように画一的に判断するというよりも、具体的な事情を基にして、個別具体的に判断します。

 

また、裁判官は(検察官や弁護士もそうですが)、証拠により事実認定をすることを徹底して訓練されていますので、裁判官は、証拠なく、周知技術・慣用技術を認定したりしません。そもそも、審査官のように、経験的・直感的に判断できません。

したがって、全ての事実認定について、根拠となる証拠があるかどうかを重視します。

その上で、事実を積み上げて、たとえば、充足性とか特許の有効性の判断をします。

 

したがって、審査官と裁判官では、バックグラウンドも、判断に至る思考過程も違っていると言えます。

 

審判官

 

以上に対し、特許庁の審判官は、拒絶査定不服審判や無効審判において、第一審裁判所と同じような役割を果たすため、裁判官のように証拠を基にして事実認定をする一方、元々は審査官ですので、技術的バックグラウンドを持っており、特許すべきか拒絶すべきかの経験的・直感的な相場観もある程度は備えています。

 

したがって、良く言えば、審査官と裁判官の良いところを兼ね備えています。

 

逆に、悪く言えば、当該技術分野についての知識が(審査官ほどは)十分でない場合が多く、ガイドライン(審査基準)にはあまり依拠せず、かといって、(法曹としての訓練をしていませんので、)裁判官のように証拠を積み上げる訓練も不十分で、中途半端な判断者にもなってしまいます。

 

あと、審判官は、上(裁判所)でひっくり返されることを気にされている方が多かったように記憶しています。

 

審査官は、上(審判)でひっくり返されるのを(少なくとも私は)余り気にしていませんでしたが。

 

まとめ

 

以上をまとめると、冒頭の模式図のようになります。

 

審査官が、技術的バックグラウンドを前提として経験的・直感的な判断(特許査定、拒絶査定)をした上で、自分の判断を基礎付ける証拠(引用文献)を後付けで提示するのに対し、裁判官は、技術的バックグラウンドがない上、法曹として、全ての事実認定について、証拠を重視し、証拠を積み上げて判断します。審判官はその中間的な感じです。

 

もちろん、審査官の中には、民事訴訟をしっかり勉強した素晴らしい方もいらっしゃいますし、一方で、知財部の裁判官の中には、技術的な理解が素晴らしい方もいらっしゃいますので、一概には言えませんが、傾向としては以上のような感じです。

 

いずれにしても、当事者(出願人、特許権者、被疑侵害者)としては、判断者のバックグラウンドを見据えた上で、適切に対応していくことが重要となってきます。

 

たとえば、審査官に対しては、審査基準を根拠に議論したり、裁判官に対しては、証拠をしっかりと提示したり、という感じです。

 

あと、余談ですが、個性が強いというのは、審査官にも、審判官にも、裁判官にも、ある程度共通していますね

 

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