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刑事事件-私が上告審(最高裁)の事件を受任する理由

はじめに

 

今回は、上告審最高裁)の刑事事件について、ご紹介したいと思います。

 

控訴審高等裁判所)については、以前に記事にしました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

上告審

 

控訴審高等裁判所)において控訴が棄却された場合(=無罪を主張していたのに高等裁判所でも有罪になってしまった場合や、罪を認めているが量刑が重く納得がいかない場合)、14日以内に最高裁に上告することができます。

 

三審制の下、上告審が、被告人にとって最後の裁判になります(ただし、更に、異議申立てという制度もありますが、割愛します。)。

 

私が上告審を担当するのは、専ら国選事件(資力が乏しい方等のために国から選任される刑事弁護人)です。

 

国選事件というのは、予め名簿登録された弁護士が配点を受けて選任される事件で、私人である被告人から直接受任するのではなく(私選)、国から選任されることから国選といいます。

 

上告審では、弁護人の主な仕事は、上告趣意書(主張書面)を作成することです。

原則として、もはや新しい事実や証拠を出しても考慮されることはほぼありませんので(なお、どうしても新たな証拠を提出したい場合は、参考資料として提出します。)、第一審及び控訴審におけるこれまでの事実関係・証拠関係や一審・控訴審の判決を精査した上で、最善と思われる主張を展開します。

 

上告は、1000件に1件取り上げてもらえるかどうかで、非常に間口が狭いです。(逆転無罪などの場合には、法廷が開かれることがありますが、)通常は法廷が開かれることがありません。

 

上告理由は、憲法違反とか過去の最高裁判例違反の場合で、その種の事件は、そう滅多にありません。

 

しかし、たとえ、上告理由にあたらなくても、上告裁判所(最高裁)は、量刑不当や事実誤認の結果、原判決(控訴審の判決)を破棄しなければ「著しく正義に反すると認めるとき」は、原判決を破棄できるとされていますので、たいていの事件では、控訴審と同様、量刑不当事実誤認の主張をします。

 

書面では、よく「・・・だから、著しく正義に反する」と書くのですが、よくよく考えると、意味がよく分かりません。

事実誤認で無罪のはずが有罪にされていたのだとすれば、それは「正義に反する」に決まっていますし、その場合は、更に、「著しく」正義に反するに決まってますよね。

「正義に反する」が「著しく正義に反する」とまでは言えない、なんでことが刑事事件であるのでしょうか。量刑も適正なものがあるはずなので、「正義には反する」が「著しく正義には反しない」という微妙なラインもなさそうだし。んー。

 

いずれにしても、「著しく」という用語は、最高裁が事件を取り上げてくれるかどうかに関して、非常に高いハードルがあることを示しているような感じです。

 

上告する被告人

 

上告する被告人は、もちろん無罪を争って、最後の砦にかけるという人もいます。量刑が重すぎて、最後まで戦いたいという人もいます。その場合は、最後の集大成の主張をしますので、被告人と話し合って、しっかりとした上告趣意書を作成すべく頑張ります。

 

一方で、単に、諸事情により、刑務所に行くのを引き延ばすという被告人も多いです。身辺整理のため、などです。せっかく国選で上告事件を受任して面会しても、

 

「あっ、先生、私あと2週間くらいで取り下げますので。」

 

と言われてがっかりすることも多いです。

 

「未決」を気にする被告人

 

あと、「慣れた」被告人からよくある質問は、

 

「先生、上告でも未決付きますよね。」

 

です。

 

この「未決」の質問は、要するに、未決勾留期間の日数、つまり、上告してから判決ないし決定までの期間の全部または一部が、裁判所の裁量により、刑期に算入されることがあり、これを意味しています。

裁判が通常よりも期間がかかってしまった場合などは、裁判所の裁量で、刑期から何十日かを差っ引くという制度です。

 

この質問に対しては、

 

「一審や控訴審では、未決が付く場合がありますが、上告審では、前述のように、逆転無罪とかでない限り、法廷が開かれませんので、未決は付きません。」

 

と答えていました。

しかし、たとえ法廷が開かれなくても、あまりに判決ないし決定まで時間がかかってしまった場合には、未決が付く場合もあります。

 

最近の担当事件では、コロナの影響で、大幅に遅れてしまった事件があり、法廷も開かれず、上告棄却決定でしたが、本来よりも3か月くらい遅れていたので、40日ほど未決が付きました。

もっとも、通常は尽きませんので、上述のように「未決は付かない」と答えています。

 

上告審の国選事件の流れ(タイムライン)としては、通常は、

① 上告を提起してから1か月くらいで、国選の弁護人が選任され、

② 選任から1月半~2か月後くらいの上告趣意書の提出期限が設定され、それまでに上告趣意書を提出します。

③ そして、(上告が棄却される場合ですが、)提出期限から、2~3週間で決定が出る場合が多いです。

 

上告審を受任する理由

 

国選事件の上告審は、裁判所が最高裁であるため、東京の弁護士が選任されます

 

控訴審の上記記事でも同じことを書きましたが、上告審を受任すると、一審から控訴審までのすべての裁判の記録を見ることができ、非常に勉強になります

 

国選の場合は、原則として、一審、控訴審最高裁と別の弁護人が担当しますので、

上告事件を担当すると、一審や控訴審の弁護人の先生の活動結果を見ることができるのです(参考になるものも多い一方で、「なんじゃこりゃ」という弁護活動も無くはありません。)

 

いずれにしても、自分の一審や控訴審の訴訟活動の能力を向上するために、非常にプラスになりますので、積極的に、上告審の国選事件も担当するようにしています。

 

東京から各地の拘置所に行かなくてはならない

 

控訴審東京高等裁判所)の場合は、関東各地の拘置所にいる被告人が、東京拘置所に移送されてきて、そこで、接見(面会)できます。

 

しかし、上告審では、前述のように、裁判が滅多に開かれないため、通常は被告人は東京拘置所に移送されてきません

 

そこで、弁護人が、被告人のいる各地の拘置所に面会に行く必要があります(北海道から沖縄まで)。

 

私は、東京から遠方だと、北は秋田、南は広島の拘置所(刑務所)まで行きました。

秋田に行ったときは、下記の記事のように、帰りに、少し秋田の地ビールを頂きました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

しかし、最近のコロナ渦の影響で、特に東京から出ることを自粛すべきという風潮があるので、なかなか移動も躊躇されます。

 

勾留されていない(在宅の)被告人の場合は、電話で自由に話せますので(今なら、Zoomとかも使えますね)、直接会わなくても問題のない場合もありますし、東京に来て頂くこともできます。

 

また、地方の拘置所に勾留されている被告人の場合も、手紙のやりとりを通じて、被告人の控訴審判決の不服な点や上告趣意書で主張したいことを聞くことができます。

 

しかし、手紙を書いてくれない被告人の場合には、コミュニケーションが取れませんので、直接、地方の拘置所に行って面会する必要が出てきます。

 

まとめ

 

上告審は、1000件に1件しか取り上げてもらえないほど間口が狭いですが、被告人が事実上争う最後の場面ですので、積極的に受任しています。

 

上告審を受任することにより、一審から控訴審までの裁判記録を精査することで、自分の勉強にもなります。

 

勾留されている被告人は、東京拘置所に移送されてきませんので、地方にいる被告人と面会するために、地方の拘置所を訪れる必要があります。(その地方に、美味しい地ビールとかあれば良いですね。)

 

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