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刑事事件-高校生の逮捕・勾留

www.youtube.com

 

はじめに

 

たまたま、ネットを見ていたら、この事件が目に飛び込んできました。

普通のネット・ニュースではぜんぜん 取り上げられていないようですね。

 

事案

 

下記の記事は、逮捕・勾留された高校生側のポジションで書かれていますし、捜査の状況も分からないので、確定的なことは言えません。 

 

www.labornetjp.org

 

およその事案の概要として、

 

被疑者である高校生は、ある中学校の外で、中学生にビラ(水泳の授業の改善を訴える内容)を配っていたところ、その中学校の副校長がビラ配りをやめさせようとしたので、この高校生が副校長をスマホで撮影しようとしたところ、副校長が撮影をやめさせようとし、その際に、この高校生が副校長に対し(スマホ等により)何らかの有形力を行使したため(叩く、ぶつけるなど)、副校長に対する公務執行妨害罪により、この副校長による私人逮捕ということのようです。

 

いくつか確認してみると、

 

(1)公務執行妨害

公務執行妨害というのは、普通は、警察官に対する暴行とかがほとんどです。酔っ払って、警察官が来たところ、殴ってしまったとか。

今回は、公立中学の副校長に対する暴行の嫌疑ということで、んー、あまり例がないような気がします。

 

(2)傷害の結果はなし?

傷害罪が被疑事実になっていないということは、多分、この副校長は、怪我はしていないのだと思われます。

 

(3)被疑者は高校生で、副校長というのは中学校の副校長ですから、同じ学校の先生と生徒ということではないのですね。そうすると、この事件以前に人的関係もなかったのでしょうか。これは分かりません。

 

(4)警察官ではなく、私人による逮捕というのも、んー、あまり例がないですね。

 

検討

 

表現の自由の問題(表現に対する萎縮効果)とかもありますが、それはさて措き、端的に、このような事案で、この高校生を逮捕に続いて10日も勾留すべきかどうかについて検討します。

 

前提として、高校生は、おそらく、(スマホによる暴行はしていない等と)無罪を争っているだろうと思われます。

 

不確実なところはありますが、以上の事実関係を前提に、皆さんは、「仮に」、高校生が中学の副校長に、スマホで(怪我をしない程度の)何らかの暴行を働いたとして、逮捕に続き、10日間の勾留(警察の留置施設に留め置かれます。)されるのが、妥当な事案と思われますでしょうか

 

以前、京アニ事件でも、勾留の要件を取り上げました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

勾留すべきかどうかの要件は、

 

① 罪証隠滅のおそれ(証拠隠滅など)、

② 逃亡のおそれ、そして、

③ 勾留の必要性です。

 

①、②については、抽象的ではなく、具体的な「おそれ」が捉えられるべきというのも、上記の京アニの事件の記事で説明しました。

抽象的に言ってしまえば、およそ全ての犯罪において、①、②の要件を満たしてしまうからです。普通、犯罪者は、(悪い奴なんだから、罪を隠そうと)証拠を隠滅するだろうとか、(悪い奴なんだから、罪を負いたくないから)逃亡もするだろう、とか・・・。

 

この高校生は、仮に、スマホで副校長先生に何らかの暴行をしていたとして、①罪証隠滅を図る可能性があるでしょうか?

具体的に、この中学校の副校長先生を脅して、スマホで暴行されていないと供述させるような行動をとるおそれがあるでしょうか。

 

この高校生は、②公務執行妨害罪という法定刑が「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」の罪(刑法95条)で、高校に行かず、親元を離れてまで逃亡するおそれがあるでしょうか。

ちなみに、万引き等の窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」(刑法235条)ですので、万引き等の方が圧倒的に法定刑が重いです。

 

次に、勾留の必要性はあるでしょうか。上述のように、公務執行妨害はそれほど重い罪ではありません。被疑者は、まだ高校生です。警察署の勾留施設(刑務所と同じような施設です。)に10日間も勾留されるべきでしょうか。自分が正しいと思った主張をビラ配りでしたのがきっかけで、何らかの暴行行為があったとしても、警察に長期間留め置かれることによる身体的・精神的影響は如何ばかりでしょうか。

 

詳しい事実関係は分かりません。

 

しかし、結論として、検察官は勾留を請求し、裁判官は勾留が妥当であると判断しました

 

身体を拘束するということ

 

日本人は、悪いことをした(悪いことをしたと疑われる)者の身体拘束をすることに、あまりにも鈍感であったり、許容性があったり、無意識であり過ぎるような気がしています

 

私も、子どもの頃、悪いことをして、家の納屋に閉じ込められました。もちろん、ドアを叩いて抵抗しましたが・・・。

 

外国人の事件を担当すると、外国人の被疑者は、なぜ、身体拘束がこんな長期間されるのかと憤り、怒り、納得できず、弁護士につっかかってきます。暴れんばかりです。そりゃそうです、刑務所に入れられているのと同じですから。

 

日本人はというと、もちろん、そういう被疑者もいますが、私が(準抗告で)勾留を争いましょうかと言っても、

 

「いや、私が悪いんで、このままでいいです。仕方ないです。」

 

という人が、意外も多いのです。

 

まとめ

 

国家権力がやるから合法になるだけで、身体拘束って、逮捕・監禁罪と同じです。

特に、自己主張をしていた高校生が大人とトラブルになって、(仮に)暴行行為をしたとしても、10日間までの勾留をすべきでしょうか。

勾留というのは、そもそも、抑制的に運用すべきではないでしょうか。

 

コロナの影響もあり、凄く悪い方向で、監視社会・管理社会が、広がっていくような気がします。

 

以前から記事で書いていますが、逮捕・勾留は、他人事ではありません。

 

・・・と書いて、また、ニュースを見ていたら、

 

news.infoseek.co.jp

 

んー。

 

警察官も人間ですから、危険と思う相手には、それ相応の対応をするのです。

(組事務所に家宅捜索する警察官の映像を、ググってみてください。)

 

若い人の凶悪な犯行が続けば、警察も、「若いからって、容赦しない。」となってしまいます。

 

アメリカの警察を見てください。様々な見解があるかと思いますが、(歴史的な背景を含む)潜在的な自己防衛意識のために、警察官が当たり前のように殺してしまうのですから。

 

日本は、アメリカみたいにならないように願うばかりです。

 

あーぁ。

 

<追記>

 

高校生(20才らしいけど)が、ビラ配りをしていて、逮捕されたときの動画がYoutubeにアップされてたので見た。色々と背景や事情があるのかもしれないが、それにしても、(客観的な)動画を見た限りで、

 

・これが、本当に、逮捕までする事案なのか・・・。

・これが、本当に、20日も勾留する事案なのか・・・。

・検察も、裁判官も、20日も勾留すべきと判断したのか・・・。