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理系弁護士・弁理士。特許、知財、宇宙、ビール、刑事事件がテーマです。

特許実務-実施料支払請求訴訟(勝訴!)

はじめに

 

 久しぶりに、自分が主担当だった特許関連事件で勝訴判決でしたので、ちょっと紹介したいと思います。

 

令和2年(ネ)10008号・令和2年7月9日知財高裁第1部判決[高部裁判長]

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/574/089574_hanrei.pdf

原判決:令和元年(ワ)第24290号・令和2年1月17日東京地裁第40部判決[佐藤裁判長]https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/234/089234_hanrei.pdf

 

「久しぶり」と言っても、(刑事事件は別として)普段は負け続けているというわけではありません。知財訴訟は、結構な割合で和解で終わることが多いのです。

 

なお、和解ではないのですが、実質的に和解のような17条決定で終わった面白い事件は以前に紹介しました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

和解は両当事者の合意(互譲)ですので、それはそれで、もちろん良い解決なのですが、やはり訴訟代理人たるもの勝訴判決が欲しい、というのが正直なところです。

もっと言うと、刑事事件の無罪判決が欲しい!

 

本件は、地裁で勝訴判決で、知財高裁でも維持されて勝訴判決を頂き、最近、裁判所のホームページにも掲載されました。

 

まだ相手方による上告受理申立てはあるかもしれませんが、ともかくも事実審は終了しましたので、事案を紹介したいと思います。

 

事案

 

共有特許権者の一人(原告)が、もう一人の共有特許権者(被告)に、契約に基づいて実施料の支払いの請求を求めた事案です。

 本件の当事者は、個人(原告)と企業(被告)でした。

 

本件とは違いますが、一方が実施せず、もう一方が実施し得る関係というのは、一番多い類型としては、共同研究開発から生じた大学と企業の特許権の共有関係というが典型でしょうか。

大学は研究機関なので、自ら発明を業として実施する主体ではないので、企業が実施した場合に、企業が大学に実施料を支払う旨取り決めることがあります。

実務上は、独占的実施か非独占的実施かによっても、支払いの有無等は変わってきますが。

 

本件は、事情は全く異なりますが、契約に基づいて一方の共有特許権者が他方の共有特許権者に対して他方の実施に伴う実施料の支払い請求をするという点では、法的には同じ関係です。

 

本件では、共同出願契約書の中で、実施料を支払う旨の取り決めがありましたが、条件(売上げの何%払うかなど)の具体的な定めは「別途協議する」となっていました。

 

原告(個人)は、共有特許権に係る発明を被告(企業)が実施したから、実施料を支払えと主張しました。

一方で、我々が代理した被告(企業)は、共有特許権に係る発明を実施していないので、主張には理由がないと争った事案です。

 

結局のところ、被告による本件発明の実施があったかなかったかの争点となったので、特許権侵害訴訟の充足論と同じ議論が展開されました。

 

知財高裁の判決文にもあるように、原告は必ずしも、被告製品を明確に特定していませんでした。しかし、被告としては、訴訟の進行に資するべく、原告が対象としていると思われる被告製品につき、非充足の主張をし、立証もしました。

結局のところ、実施(充足)に関する原告の主張・立証が不十分で、実施の事実が認められなということで、地裁で請求棄却となり、知財高裁でもその判断が維持されました。

 

均等や間接実施(間接侵害)の主張はあり得る?

 

同様の共有特許権者の一方が他方に実施料の支払いを請求する事案は、あまり判決で見たことがないです。私のただの勉強不足かもしれませんが。

 

しかし、本件は別として、その実施主体である一方共有特許権者が、厳密な意味で発明を実施していなくても、たとえば、均等物の製造・販売を実施していたとか、(間接侵害にあたり得る)部品の製造・販売を実施(間接実施というのでしょうか?)していたというような事案があれば、非実施主体である共有特許権者としては、特許権侵害訴訟と同様、均等や間接侵害(間接実施)の主張をする余地もあるように思えます。

 

侵害訴訟の充足論とパラレルに考えてよいかどうかはちょっとわかりませんが、少なくとも、契約関係があるので、まずは契約内容を見る必要があることは確かです。

しかし、「均等物やのみ品・不可欠品の製造販売等についても「実施」に該当し、それに応じた売上げの何%の実施料を支払う」などといった規定は一般にはあまり設けられていないように思われます。

だからといって、均等や間接品に一切及ばないというのも妥当ではないので、やはり、侵害訴訟の充足論とパラレルに考えるべきかもしれません。

 

本件では、均等や間接実施の観点からしても、被告は明らかに本件発明を実施していなかったので、そのような論点が出てくる余地もありませんでしたが。

 

最後に

 

私、筑波大学ロースクールで、知的財産法演習の講師を担当しています。

 

www.lawschool.tsukuba.ac.jp

 

ですので、今回のような共有特許権者間の簡単な仮想発明を設定した上で、共有特許権者間の実施料支払請求についての事例問題を出してもよさそうな問題な気がしてきました。

 

他の特許法特有の共有の論点特許法73条)も絡められますしね。

 

知財法演習は、来月(8月)から始まるのですが、今年はコロナの影響でオンライン授業(双方向のやりとりあり)か録画授業(双方向のやりとり無し)のどちらかを選択するそうです。

 

私の担当は「知的財産法演習」なので、一方的な講義形式ではなく、学生の皆さんとお話しながら進めるオンライン授業をしたいと思っているのですが、果たしてうまく行くかどうか・・・大変不安です。

 

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