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特許実務(特許権侵害訴訟で、17条決定)

はじめに

 

特許権侵害訴訟が提起した場合、通常は、判決(勝訴、敗訴)で終わるか、和解で終わります。

 

しかし、今回は、特許権侵害訴訟を提起したものの、その事件が調停に付され(付調停)、最終的に、民事調停法17条に基づく決定(調停に代わる決定ないし17条決定)により、事件が解決した事例について紹介したいと思います。

 

特許権侵害訴訟では、私も初めての経験で、ちょっと珍しいパターンかもしれません。

 

特許権侵害訴訟提起から17条に至った経緯

 

本件で、私は、原告側の代理人の一人でした。訴状を提出し、通常通り、期日(弁論準備期日)が始まりました。

被告は、非充足の反論をしましたが(無効論の反論は出ませんでした。)、客観的に見ても、充足性(侵害)が認められるであろう事件でした。

 

原告(依頼者)は、諸事情により、「被告が原告の特許権を侵害している。」という裁判所の判断を頂きたいという意向が強かったため、代理人として、和解の可能性はあまり考えておりませんでした。

 

一方、裁判所は、当初から、和解が相当な事案だという認識でした。当初から、和解の可能性について聞かれたように記憶しています。私も、裁判所の立場であれば、和解が相当な事案だと判断したと思います。

 

原告・被告で、3回くらい書面の往復があった後、案の定、裁判所から和解の勧試があり、(裁判所は明確にはおっしゃいませんでしたが、)侵害の心証を前提としたものでした。

 

しかし、原告としては、裁判所が侵害と判断した文書が欲しいので、和解というのであれば、裁判所の侵害の心証を、前文などで述べてもらうことは可能かを伺い、もし可能であれば入れて欲しいという意向を伝えました。

 

しかし、和解というのは、性質上、当事者間の合意(侵害の場合、被告から原告に解決金を支払う、被疑侵害品を設計変更する、あるいは、廃棄するなど)ですので、「裁判所が侵害の心証を得た」という内容は、和解条項はもちろん、和解の前文として入れるというのも、少し難しい感じでした

 

そこで、裁判所から頂いた提案は、民事調停法に基づき、本件を最終的に調停に付した上で(付調停)、17条決定により、本件を解決するという案でした。

 

私は、正直、最初「???」と思いました。特許権侵害訴訟なのに調停?

民事調停法を調べると、以下のとおりでした。

 

<民事調停法>

(付調停)

第二十条 受訴裁判所は、適当であると認めるときは、職権で、事件を調停に付した上、管轄裁判所に処理させ又は自ら処理することができる。

 

(調停に代わる決定)
第十七条 裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができる。この決定においては、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命ずることができる。

 

この制度を利用しようというわけです。

 

裁判所からの説明によると、和解条項と違い、17条決定では、「決定の主文」だけでなく、下記のように、裁判所の侵害の心証を「決定の理由」の欄に書くことができるとのことでした

 

実際、

 

「当裁判所は、被告商品が本件各特許の特許発明・・・の技術的範囲に属し、本件各特許権を侵害すると認めるに至ったものであり、・・・」

 

と「決定の理由」に書いてもらうことができました。

 

原告・被告双方納得の上、侵害を前提に、17条決定で本件を解決することになりました。

 

17条決定までの手続き

 

決定の主文」にあたる内容(被告が原告に解決金をいくら払う、今後販売しない、清算条項等)を取り決めました。これは、和解期日で和解条項を決めるのと同じで、期日を重ねて詰めていきました。

 

ちなみに、17条決定の場合は、その決定に対して、当事者が異議の申立てができてしまうので(民事調停法18条)、裁判所としては双方納得の「決定の主文」を確定し、当事者双方が予め異議の申立権を放棄した上で、決定がなされました。

異議申立期間は2週間ですが、予め異議の申立権を放棄した場合には、決定と同時に確定することになります。

 

<民事調停法>

(異議の申立て)
第十八条 前条の決定に対しては、当事者又は利害関係人は、異議の申立てをすることができる。その期間は、当事者が決定の告知を受けた日から二週間とする。

 

手続きとしては、「決定の主文」に相当する内容が双方の合意により固まった段階で、読み上げられ、期日としては終了しました。これも和解と同じ感じです。

 

その後は、当事者はもはや裁判所に行く必要はなく、裁判所が、事件を調停に付して、17条決定がなされました。最後の期日から決定日までは、1週間ぐらいだったと思います。

 

ちなみに、付調停といっても、別の調停委員会が調停を行うというのではなくて、当該裁判体がそのまま調停をし、直ちに、17条決定がなされるというものでした(自庁調停と言うそうです。)。根拠は、以下の条文と前述の20条でしょうか?

 
<民事調停法>
(調停機関)
第五条一項 裁判所は、調停委員会で調停を行う。ただし、裁判所が相当であると認めるときは、裁判官だけでこれを行うことができる
 
 
正直なところ、初めての経験で、不慣れなのでやや戸惑いましたが、裁判所の心証を頂きたいという依頼者の意向を実現しながらも、(判決に比べて)早期に解決できましたので、大変良かったです。 
 

知財調停

 

ちなみに、知財で調停といえば、昨年の令和元年10月始まった、いわゆる「知財調停」がありますね。これは、双方の管轄合意に基づいて、最初から調停をするやつですね。

 

私はまだ経験していませんが、実際のところ、活用されているのでしょうか。

 

ちなみに、知財調停については、大阪地裁の以下の資料が分かりやすいです。

https://www.courts.go.jp/osaka/vc-files/osaka/file/oosakatizaicyouteisinnriyouryou.pdf