刑事事件あるある
今回は、私が刑事事件を受任してきた経験上、よく遭遇する「刑事事件あるある」を紹介したいと思います。
たくさんありそうなので、今回は「その1」としました。
電話番号が分からない!
一番、多いのはこれです。
逮捕・勾留される方は、まさか、自分が逮捕・勾留されることになるとは思ってもみない場合が結構あります。
ふとしたきっかけでカッっとなって人を殴ってしまい、現場で駆け付けた警察官によって暴行や傷害で逮捕されることもあります。
また、日常的に盗撮や痴漢をしていたら、突然見つかってしまい、逮捕・勾留されたり。実は、突然見つかったのではなく、既に被害者が被害を警察に報告しており、警察官が張っているということはよくあります。犯人は気づかないことが多いですが。
そして、被疑者が、逮捕・勾留され、私が接見(面会)に行くと、
「先生、私、突然逮捕されて大変です。〇〇(家族や仕事の関係の人など)にすぐに連絡をとらないと行けないんです。」
と非常によく言われます。
弁護人(弁護士)は、被疑者・被告人の弁護をすることが仕事ですが、そうはいっても、その一環として、家族に連絡したり、あるいは、仕事の大事な連絡とかはできる限り対応してあげることも多いです。
私が、
「その方(家族等)の電話番号教えてください。」
と聞くと、被疑者は、
「・・・分かりません。スマホに登録はしてあるのですが・・・。」
ということが非常に多いです。
昔は、家の固定電話番号はもちろん、親しい友人等の電話番号は暗記していましたよね。
しかし、最近は(といっても結構前からですが)電話番号を登録できてしまうので、自分の家族のスマホの番号さえ覚えていないのが普通です。最近は固定電話もなくなってきました。ですので、ほとんどの人が、連絡をとりたい人の電場番号を言えないのです。
そこで、被疑者は、
「では、私のスマホを宅下げしてもらって、暗証番号を教えますから、〇〇の連絡先を取り出してください。」
※宅下げ=逮捕・勾留されている被疑者から、接見に来た者(弁護士や家族)に対して物品を渡すこと
と言います。
正直、ちょっとやりたくないですよね。(被疑者と面会室で面会しながらであっても、)他人様のスマホをいじるというのは・・・。
まず、スマホが(覚せい剤の売買ルートを解明するためとか、盗撮の写真データを証拠化するとかで)差押えられていると、そもそも、宅下げはできません。
また、差押えられていなくても、逮捕・勾留されている被疑者のスマホは、どうやら警察の金庫に保管されるようなのですが、勾留されている警察署と、事件の取り扱いの警察署が異なることがあり、その場合は、別の警察署に行かなくてはならない場合もあります。
また、平日でも夕方以降(警察官は公務員ですが公務員の勤務外の時間である午後5時15分以降?)や土日は、金庫が閉まってしまい、宅下げができません(と言われてししまいます。)。
弁護士が接見(面会)に行くのは、だいたい、普通の勤務が終わった夜6時以降が多いので、金庫が空いていないということがほとんどです。
したがって、直ちに、被疑者が連絡をとりたい人と連絡が取れないということも多いです。
ですので、皆様、(そんなことはないとは思いますが)万が一逮捕されてしまったときのために、家族の電話番号ぐらいは暗記しておきましょう。
もっとも、最近はインターネットで気軽に何でも調べられるので、連絡を取りたい方がお店や会社などで働いていたりする場合は、ネットでそのお店や会社を調べて連絡がとれる場合も多いですが。
もっと困るのは、電話番号は知らず、LINEだけでやりとりをしている方と連絡をとりたいという場合です。スマホを宅下げして、被疑者の代わりに、LINEアプリで、
「突然ですが、私、〇〇さんの弁護士です。実は、〇〇さんが逮捕されてしまいまして・・・」
とメッセージするのは、正直、嫌ですよね。まだやったことありませんが。
家を出るときは、戸締りはちゃんとしておこう!
次は、私が昔担当した傷害事件で起こったことですが、事件の内容は(個人を特定しない形で)また別の機会の紹介したいと思います。
被疑者は、家を出て近所のコンビニに行くために歩いていたところ、その途中で、自転車に乗ってやってきた若い2名とトラブルになり、2名を投げ飛ばして怪我を負わせてしまたっという事件です。
その場で、警察に逮捕され、勾留されました。
ところが、その方は一人暮らしだったのですが、近所のコンビニにちょっと買い物に行くだけだったので、家の鍵は掛けておらず、おまけに、(暖房器具か何かの)電化製品をつけっぱなしにして出かけてしまったのです。
被疑者
「先生、私、まさかこんなことになるとは思わず、家の鍵は掛けていないし、色々、電気とか暖房とかつけっぱなしで・・・。」
私
「ひぇ~、困りましたね。あなたの家が分かる家族とか知り合いとかの電話番号わかりますか。」
被疑者
「全部、スマホに登録してあって、分かりません。」
私
「でた、しかも、もう夜だからスマホ宅下げできません。困りましたね。」
万が一、泥棒とか火事とかになってしまったら大変です。
この件は、結局、その部屋を管理する不動産屋を特定し、ネットで調べて電話し、幸いにも、夜にも関わらず連絡がとれました。
※なお、不動産屋と連絡をとり、事情を話すことは、被疑者から了解を得ています。
私(電話にて)
「あの、夜分遅く大変恐縮ですが、そちらで部屋を借りている方が逮捕されてしまいまして、しかも、家の鍵やら、電気やらをつけっぱなしの状態で。もし、泥棒とか火事とかになったら困るので、ちょっと対応して頂けませんでしょうか。」
と、(やや遠方だったこともあり、)不動産屋の方にちょっとずうずうしいお願いをしました。
不動産屋さんは(電話で)
「いやぁ~、我々が管理しているとはいえ、他人の部屋ですからねぇ。困りましたね。先生が同行してくれれば、対応しますが・・・。」
「うっ、・・・。」
というこで、結局、私が被疑者の部屋に行くはめになり、不動産屋の方と私で、家に入って、電気やら電化製品をオフにし、被疑者から予め聞いていた家の鍵を見つけて施錠して、無事、事なきを得ました。
これ、私一人で対応もできますが、後で被疑者から、「何かがなくなった」だの色々言われると厄介です。
今回は不動産屋の方と2人で部屋に入ったので、そのようなトラブルはなく、結果としては、無難に解決することができました。
まとめ
ということで、結構長くなってしまったので、「刑事事件あるある」の続きは、またの機会にしたいと思います。
今回の点をまとめると、
(1)万が一、逮捕・勾留されることに備えて、絶対に連絡をとらないといけない人の電話番号は暗記しておきましょう(配偶者とか親や子など)。
(2)出かけるときは、電化製品の電源を切って、施錠して出かけましょう。
以上です。