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特許入門8(鉛筆特許のクレームの検討2)

前回の「平坦面を有する」クレーム検討について

 

前回は、

 

表面に平坦面を有することを特徴とする筆記用具。」

 

というクレームについて、

(1)形状の特定としての「平坦面」に、「転がり止めのための」という機能的な形容句をつけてみたり、あるいは、

(2)「転がり止め手段」という機能でのみ特定した機能的クレームにしてしまった場合の問題点等について検討しました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

今回は、これまで同様の下記仮想事例において、「断面が多角形」であると規定した下記クレームについて検討したいと思います。

 

<仮想事例>

従来、世の中には、円形断面の鉛筆しかなかった。

しかし、机から転がり落ちるという不便さがあった。

そこで、発明者は、六角形断面の鉛筆を思いついた。

 

<クレーム>

【請求項1】 断面が多角形であることを特徴とする筆記用具。

【請求項2】 請求項2において、断面が三角形であることを特徴とする筆記用具。

【請求項4】 請求項2において、断面が四角形であることを特徴とする筆記用具。

【請求項5】 請求項2において、断面が五角形であることを特徴とする筆記用具。

【請求項6】 請求項2において、断面が六角形であることを特徴とする筆記用具。

・・・(どこまで書きましょうか...)

  

「断面が多角形」のクレームの成り立ち

 

発明者は、鉛筆が転がり落ちないために、(円形ではなく)六角形断面の鉛筆という具体的なものを思いつきました。

 

しかし、より「広い」特許の観点から上位概念化作業により、

 

【請求項1】 断面が多角形であることを特徴とする筆記用具

 

とした上で、発明者が思いついた断面が六角形の筆記用具や、その他の三角形、四角形、五角形は、従属項(【請求項2】~【請求項6】)としました。

 

従属項の意義は、前述の前回記事で書きました。

(1)請求項1に先行文献が見つかった際の補正や訂正をしやすくするため、あるいは、

(2)審査官になるべく網羅的に先行文献を見つけてもらうためでした。

 

六角形に限定したクレームは、

(1)主要な効果(転がり落ちないという効果)に加え、

(2)付加的な効果(グリップがちょうど良いなど)もあり、

「狭い」ながらも「強い」特許のような気がします。

 

「断面が多角形」のクレームの検討

 

「断面が多角形」というクレームの記載にケチをつけるとすると、「多角形」というのは三角形以上のものを意味するところ、たとえば、「百角形」だと「ほぼ円形」ですので、多角形のうち、「多」が相当多いものは、転がり止めという発明の課題を解決しないとして、記載要件(サポート要件)違反を指摘されることが考えられます。

 

確かにそうですね。六角形だけでなく、三角形も、四角形も、転がり止めになる、だから、多角形としてしまえば、広く権利が取れると思いましたが、八角形?くらい以上になると、おそらく、机から転がり落ちてしまいそうですね。

 

そこで、多角形の「多」の範囲を「三から六」くらいに限定しなければならなさそうです。

 

これって、数値限定発明の一種ような感じがしてきましたね。「3以上」の「自然数」でなければなりませんが。

 

【請求項1’】 断面がP角形(P:3以上6以下の自然数)であることを特徴とする筆記用具

 

数値限定的な書き方ですが、ちょっとカッコ悪いでしょうか。素直に、

 

【請求項1】 断面が三角形であることを特徴とする筆記用具。

【請求項2】 断面が四角形であることを特徴とする筆記用具。

【請求項3】 断面が五角形であることを特徴とする筆記用具。

【請求項4】 断面が六角形であることを特徴とする筆記用具。

 

と全部並べ立てるの方がよいでしょうか。好み(や料金)の問題があるかもしれません。

 

しかし、そもそも、「数値限定」はしたくないというのが正直なところです。

 

というのは、鉛筆の大きさによっては、各辺の長さ(≒その辺を含む表面の長方形の面積が)ある程度の大きさを確保できれば、(表面粗さなども相まって)七角形であっても、転がり落ちないかもしれません

 

(そんなものが売れるのかは別として)七角形の鉛筆を製造・販売する第三者に、特許権を行使できないのも、なんか悔しいですしね。

 

そこで、数値限定を回避すべく、

 

【請求項1’’】 断面が、転がり止め機能を有する多角形であることを特徴とする筆記用具。

 

という、(前回同様の)機能的な形容句を付けるというクレームも考えられます。

 

しかし、審査官によっては、(発明の外延が)不明確である特許法36条6項2号)等と言われてしまうかもしれませんが・・・。

 

私は、

 

(1)明細書で、三角形~六角形までの実施例を挙げておき、更に、

(2)明細書か、後から意見書で、「転がり止めのための」の形容句は、七角形以上の多角形であっても、辺の大きさや表面粗さによって、転がり止めの効果を奏するものがあり、それは権利範囲に含まれる

 

という言及をしていれば、この「転がり止め機能を有する多角形」という記載のクレームで特許しても良いように思うのですが、如何でしょうか。

 

一方で、伝統的な審査官(昔の私)なら、ちゃんと数字を特定しろというかもしれません。

 

この辺は審査官次第(運)もあるかもしれませんね。

 

ただ、たとえば、六角形とクレームで限定してしまうと、七角形の鉛筆に対しては、均等論でも権利行使は難しいと思われます。

 

均等論で数値範囲を拡張するというのは、(第1要件、第5要件などの点で、)一般に難しいという印象です

 

ですので、審査段階では、やっぱり、

 

【請求項1’’】 断面が、転がり止め機能を有する多角形であることを特徴とする筆記用具。

 

で勝負し、特許をとりたいところです。

 

もっと良い案があれば、是非教えてください。