事案(住居侵入事件)
私が担当した事件ではなく、6月8日の下記ニュースの事件です。
報道によると、被疑者は、他人のアパートの敷地内に入り、知人の女性宅を覗いたという事案で、住居侵入罪での逮捕だそうです。
なぜ、この事件を取り上げたかというと、2点あります。
1つは、実は、被疑者が、私の小学校の同級生でした。ローカルとはいえ、テレビで活躍していたので、非常に残念なニュースです。
もう一つは、この事案はさておき、住居侵入罪などの罪は、知らないうちに、犯してしまう可能性のある罪なので、注意が必要ということで、ここで取り上げることにしました。
住居侵入罪が成立する典型的な場合
住居侵入罪が成立する典型的な事例としては、窃盗(侵入盗)や覗き目的などで、人の家などに無断で入る場合です。
窃盗罪の場合は、住居侵入罪よりも法定刑が重いので(窃盗罪は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金、住所侵入罪は3年以下の懲役又は10万円以下の罰金)、窃盗罪だけが対象となる(住居侵入罪は立件されない)こともあります。
今回のような家の中を覗く目的の場合は、場合によっては軽犯罪法の適用もあり得ますが、(前段階の行為である)住居侵入罪が単体で問題とされています。
「覗き」に関連するその他の罪
住居侵入以外にも、のび太くんのように、他人の家のお風呂を覗くなんていうのは、住居侵入罪と併せて、軽犯罪法も適用され得ます。
他人の家のお風呂やトイレなんかを盗撮したりすると、迷惑防止条例違反になります。公共の場所・乗り物(電車等)でも同様です。
軽犯罪法(第1条23号)
「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」
東京都迷惑防止条例(第5条)
何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行
為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
(2) 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる
ような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
(3) 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。
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住居侵入罪(建造物侵入罪)には注意が必要
皆さんは、犯罪をするというのは、すごく特殊な人たちで、自分には全く関係がないと思っているのではないでしょうか。
確かに、窃盗罪や覚せい剤の使用などは、自分は絶対そのようなことはしないと思っていれば、そのような罪を犯すことはありません。
しかし、住居侵入罪(あるいは建造物侵入罪)は、思わぬところで、犯してしまう可能性があるのです。
次に説明する事件は、私が過去に担当した建造物侵入罪の事件ですが、事案を少しアレンジしてあります。
<建造物侵入罪の事件>
・被疑者(男性)は、ある女性と付き合っていたものの、2人は「別れる・別れない」の話合いをしているような段階であった。
・そのような中、被疑者は、ある日、酔っぱらって、夜中に女性宅(アパート)を訪れ、女性宅のドアを叩いたり、女性を呼んだりした。
・女性は怖くなって、警察に電話し、被疑者は建造物侵入罪で逮捕された。
なお、女性のアパートの中に入れば、住居侵入罪が成立し得ますが、ドアの前まで(共有部)の侵入ということで、建造物侵入罪で逮捕されました。住居侵入罪も建造物侵入罪も法定刑は同じですので、あまり、両者の区別は問題にしなくてよいです。
如何でしょうか。被疑者の男性からしたら、付き合っている(あるいは、女性から見れば、付き合って「いた」)女性宅を訪れ、そして、逮捕されてしまったのです。
確かに、夜中にドアを叩くとか、女性をドアの外から呼ぶというのは、穏やかではありません。しかし、特に若い男女が別れる、別れないでこじれている状況では、よくありそうな場面です。ドラマでもありそうですね。
付き合っている女性宅を訪れることは、同意があるので、何らの罪にもなりません。
本件の女性としては、既に別れた男性と認識し、ドアの外で騒がれたので、怖くなり警察に電話したわけです。
連絡を受けた警察としては、建物管理者の同意がない・平穏を害する態様でのアパート(共用部)への侵入ということで、建造物侵入罪の成立が認められると考え、男性が、逮捕されることになってしましました。
女性も、まさか、男性が逮捕されるとは思っていなかったようです。
しかし、この男性は、逮捕後に更に勾留されてしまい、結局、12日間もの警察の留置場にいなければならなってしまいました。
もっとも、この件は、ご家族や職場の方(や私)の努力もあり、何とか示談等により、勾留を延長されずに、12日目に釈放され、仕事にも復帰することができました。でも最悪の場合は、仕事を失っていたかもしれません。
このように、男女の別れ際などの場合、犯罪を意識せずに、住居侵入罪で逮捕される可能性があります。同じく、男女の別れ際において、男性が女性に手を出した場合、(同意がないことを理由に)性犯罪が成立していまう場合もあるのです。
特に若い方々は、男女の別れ際の際には、注意する必要があります。単に、男女のこじれを超えて、警察沙汰になってしまうのです。
私も、何件か担当しました。逮捕された被疑者(たいていは男性ですが)
「何で、俺が逮捕・勾留されるの?」
という感覚でした。
微罪(軽犯罪法等)にも注意
さて、先ほどのお風呂覗きのように、軽犯罪法には様々な犯罪が規定されています。読むと面白いです。「犯罪なの?」と思われるものもあります。
たとえば、軽犯罪法だと、
・生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの(第1条4号)
「公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者」(第1条20号)
・「街路又は公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者」(第1条26号)
など。
軽犯罪法や道路交通法など、軽微な事案でも、警察が目を付けて(出頭要求に応じない場合に)逮捕しようと思えば、逮捕できてしまいます。微罪での逮捕というは、ときどき、問題になりますね。重罪を捜査する際に、まず、微罪で「しょっぴく」というのは、過激派や宗教集団の関係で、よくありますよね。
各地方の迷惑防止条例違反も、是非ご確認ください。
まとめ
今回の覗き目的の住居侵入罪は、逮捕されてもやむを得ません。
しかし、皆さまにとって、犯罪は遠い世界のことではなく、実は、誰もが思わぬところで逮捕されてしまうという「落とし穴」があります。
今回触れなかったものも含め、たとえば、
① 車の運転(過失罪)
② 男女の揉め事の延長(住居侵入や性犯罪、迷惑防止条例違反など)、
③ お酒を飲んで酔っ払った状態(暴行・傷害罪、器物損壊罪など)
④ デモ参加や繁華街で、興奮した状態での警察官とのやりとり(公務執行妨害罪、迷惑防止条例違反など)
では、(たとえ、そのような意識がなくとも、)犯罪に該当し、場合によっては逮捕される罪にされてしまう場合があるので、十分注意してください。
軽犯罪法は、過激派や宗教団体などで警察に目を付けられていない限りは、逮捕されることは稀ですが、(条文の内容が面白いこともあるため、)暇な際にでも、是非ご確認ください。