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刑事事件(事案4-窃盗事件)

事案(万引き事件)

今回は、ある万引き事件について紹介したいと思います。

被告人は、70代の一人暮らしのお婆さん、スーパーで食料品などを万引きしました。逮捕・勾留はされませんでしたが、万引きの前科・前歴もあったため(前回は罰金刑)、今回は起訴され、私は、国選弁護人として裁判を担当しました。

 

窃盗(万引き)の動機

 

本件で、お婆さんが、窃盗をしてしまった動機は、ちょっと変わったものでした。

 

以前にもご説明しましたが、窃盗の動機は、人により様々です。

 

(1)買うお金がなかので、盗んだ。

(2)お金はあるが、お金を使うのがもったいなくて、盗んだ。

(3)スリルを体験するため、盗んだ。

(4)クレプトマニア(窃盗症)

 

クレプトマニアというのは、万引きして物を手に入れたいわけではないのに、衝動的に万引きをしてしまう精神疾患(病気)です。以前、元マラソン選手がこの症状になって万引きしてしまい、話題になりましたね。

 

弁護人は、被告人の動機をスタートポイントとして、被告人が二度と万引きを繰り返さないということを、裁判官に理解してもらうことをめざして、説得的なストーリーを作って、弁護活動をします。

 

(1)の場合は、万引きをしなくとも生活できるよう、生活保護の受給申請、(身内の手助けによる)生活費の確保、家族などによるサポート体制の確立などを目指します。「お金を確保すれば、万引きをしない」というストーリーです。

 

(2)、(3)については、十分反省してもらい、今後、万引きをしないよう、どのように意識を変えていけるかを考えてもらい、裁判官の前で話してもらいます。同時に、被告人の監督者を確保します。

 

(4)は、(意識改革や反省の問題ではなく、)病気ですので、治療の必要性があるため、病院に行き、診断書や治療計画などを立て、これを裁判所に分かってもらうようにします。監督者の確保も重要です。

 

本件の被告人の万引きの動機

 

今回、最初に被告人(お婆さん)と話した際、万引きをしたこと自体は認めていたので、その動機を伺いまいた。

 

「なぜ、万引きをしてしまったの?」という問いかけに、お婆さんは、自分の飼っているたくさんの猫の話を始めました。

 

刑事事件の弁護人をすると、よく経験することです。私の質問と関係のない話を始める被告人

しかし、(時間がもったいないと)すぐに話を止めては行けません。最初は、全然関係のない話でも、それが、万引きをするに至った理由に結びつくことも多いのです。話は長くなり、聞く方も大変ですが。

 

30分くらいお話しを伺い、ようやく、事情が見えてきました。

 

・このお婆さんは、警察官か警察関係の方から、何らかの経緯で、一時的に猫を預かった。 ※この経緯はよくわかりませんでした。

・その後、しばらくその預かった猫の世話をしていたら、猫が(去勢をしていなかったため)増えてしまった。

・増えてしまった猫を、最初に預かった警察官(警察署)引き取ってもらいたいとお願いしたが、警察官(警察署)は拒否した。

・役所などにも相談したが、たらい回しにされ、知り合いにもあたったが、結局、誰も猫を引き取ってくれなかった。

・保健所に相談して、殺処分となるのはかわいそう過ぎると思って飼い続けたていたが、(生活保護を受けていたが、)増えてしまったたくさんの猫のえさ代を支払うため、自分の生活費が足りなくなってしまった。

・それで、自分が食べる物をスーパーで盗んでしまった。

 

「(1)買うお金がなかったので、盗んだ。」の一事例ですが、これを解消するためには、猫を何とかしなければなりません。殺処分はかわいそうだし、そもそも、処分にも費用がかかる。引き取りてを見つけるのが一番です。

 

お婆さんは、「最初に自分に猫を引き取らせた警察が悪い!」という意識がものすごく強かったのです。

 

しかし、そのような理由で万引きを正当化することはもちろんできませんし、やむを得ない事情であるとも言えませんので、私は困りはて、とにかく、猫をどうにかする(でいれば、引き取り手を確保する)ことで、お婆さんが再び万引きをしないようなストーリーを考え、裁判所に提示しました。

 

本件の被告人の万引きの動機

 

しかし、裁判(公判)では、検察官が、反対質問で、動機の追及により、被告人をあおってしまった結果、お婆さんは、「警察が猫を引き取らない以上は、また、万引きをする!」と断言してしまい、私は冷や汗をかいてしまいました。

 

刑事弁護は大変です。

 

まとめ

 

万引き事案では、動機を解明し、再犯(=再び、同じ犯罪に手を染めること)を防ぐための対処方針を考え、それを裁判所に顕出すべく主張・立証活動をする、というのが弁護人です。

 

しかし、今回の「たくさんの猫の引き取り手を探す」というミッションは、裁判までの短期間でどうにか対処できる問題ではなく、しかも、検察官がお婆さんを煽ったという不運もあって、思ったようにはうまくいきませんでした。

 

今回の事件は、前回が罰金刑でしたし、被害弁償がなされたこともあり、判決としては、執行猶予がついたので、お婆さんは刑務所に行く必要がんく、ほっとしました。

 

しかし、将来的にたくさんの猫を飼っているという状況を解消しないと、また、万引きをしてしまい、次回は実刑(刑務所行き)になってしまいます。

 

私は、「くれぐれも万引きをしないように。次は絶対に刑務所行きですよ。」と念を押しつつ、猫の引き取り先を探すため、いろいろとアドバイスをしました。

「困ったら、いつでも電話してください。」ともお伝えしました。

 

猫の引き取りてが見つかること、この先、お婆さんが再犯に至らないことを心から祈りたいと思います。

 

動物の引き取り手がなく、野生化してしまったり、殺処分になるというのは、社会問題の一つですね。弁護士をしていると、色々な社会の情勢が具体的体験とともに理解できるので、良い仕事です。大変ではありますが。