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特殊詐欺(振り込め詐欺、オレオレ詐欺など)の厳罰

コロナ渦による失業と特殊詐欺

最近、コロナ渦の影響で、仕事やアルバイトを失ってしまったり、新たな仕事やアルバイトを見つけられずに、困っている方が増えています。

 

一方、振り込め詐欺オレオレ詐欺といった特殊詐欺のグループは、コロナ渦に便乗し、コロナ給付金などといった新たな手口での特殊詐欺をはたらき、実際に被害が出ているというニュースも見ました。

 

特に、若い方が、特殊詐欺に関わってしまう懸念がより高まっています。具体的には、「受け子」・「出し子」(キャッシュカードを騙し取り、ATMで現金を引き出したりする役目)などで、グループの末端の一員になってしまう可能性があります

 

特殊詐欺グループは、それらしい会社を名乗り、あたかもアルバイト募集や就職の形をとって、最初は気が付かないことも多いようです。

 

そして、一旦、詐欺グループに入ってしまうと、抜け出そうとしても、既に個人情報を抑えられており、家族に危害を加えるなどと脅されて、逃れることができなくなります。

 

でも、ここでお話したい重要な点は、

 

若い方で、末端者に過ぎない「受け子」「出し子」であっても、    

これまで一度も逮捕されたことのない「初犯」でも、

いきなり「2年半~3年半実刑」となり、執行猶予が付かない

 

可能性が高いので、絶対に、絶対に、特殊詐欺に手を出してはいけないということです。私が言いたいことは、これに尽きます。

 

特殊詐欺で逮捕された場合、裁判でどの程度の刑になるかは、実際、ほとんど報道されておらず、知らない方も多いと思います。2年を超える実刑判決を受けてから、はじめてビックリする被告人も多いようです。正直なところ、弁護士でも、知らない人が多いです。

 

このように、特殊詐欺に関わって逮捕されてしまうと、皆様が思っている以上に、大変深刻な事態になりますので、特殊詐欺が如何に厳罰かを具体的にご紹介したいと思います。

 

特殊詐欺の厳罰の理由

私は、特殊詐欺の事件の「第一審」の弁護人は(たまたま)担当したことがありませんが、控訴審(第二審)・上告審(最高裁)の事件を数件担当したことがあります。いずれも、20~30代の若者の男性です。

 

特殊詐欺については、以下の主な理由で、情状がものすごく悪くなります。

 

(1)組織的犯罪であること

(2)被害額が大きく、被害が回復されていない(示談がなされていない)こと

 

弁護人としては、

 

(1)について、被告人は、受け子等の末端者に過ぎないこと(=計画をしたわけでも、主導したわけでもなく、命令を受けて動いたに過ぎず、その役割としても小さいこと)を主張します。

しかし、裁判所は、被告人がたとえ末端者であったとしても、組織的犯罪において、不可欠の役割を果たしているなどと判示し、末端者であることをもって、刑を軽くする方向には考えてくれません。

 

(2)について、被害件数(被害者)が多く、しかも、被害金額が大きすぎて、示談ができきないことが多いです。

他の犯罪でも何度かご説明していますが、良い情状のためには、示談が一番重要です。

しかし、たとえば、被害金額が合計5000万円の場合、別に、特殊詐欺に関わった全員で頭割り(たとえば関与者が20人なら250万円)で済む、という話ではありません。そもそも、「受け子」や「出し子」は、被害者や銀行に出向いており、足がついて逮捕されやすいですが、特殊詐欺グループの幹部や他の関与者は、同時に逮捕されることは稀ですので、それぞれの件について何人関わったさえもわかりません。

 

(一人だけ捕まってしまった場合は)、良い情状を得るためには、原則、被害金全額を弁償する必要があります。たとえ、末端の「受け子」であったとしても、その者が被害を出したことに変わりはないので、被害金額である5000万円に相当する額を弁償できないと(一部金額の示談のみでは)、執行猶予を獲得するなどといった大幅な減刑は期待できません。

 

被告人である若者の親や親戚は、泣きながら、駆けずり回ってお金を集めて何とか示談をしようとしますが、金額が金額なので、なかなか集められず、示談に至らないのが現実です。

 

弁護人としては、その他、

 

・本人が深く反省していること

・初犯であること

・まだ若いこと(可塑性がある=立ち直ってやり直しがきく柔軟性があること)

・身元引受人・監督者(親など)の存在

 

を主張・立証しますが、前述の示談が成立していないと、これらの良い情状はそれほど大きな効果がありません。

 

また、積極的な捜査協力も一般には良い情状になりますが、組織の末端で、組織の全体を知らず、捜査への協力も限定的とならざるを得ません

 

特殊詐欺の実際の求刑・判決

受け子といった末端の若者の場合でも、検察官の求刑は4年が多いです。

 

そして、判決は、若者で、初犯であっても、2年半から3年くらい懲役刑で、しかも実刑になることが多いです

 

控訴審などを担当すると、若い被告人から、

 

「私、初めて逮捕されたんです。電話で指示を受けて、指示どおりに動いていただけです。グループから脅されて抜けれられず、だらだらと詐欺に関わってしまいました。反省してますし、二度と特殊詐欺に手を出しません。被害金が多く、親や親戚に相談しても、示談金は用意できません。一審の弁護人の先生は、初犯なら執行猶予がつくからと言われましたが、2年6月の実刑になってしまいました。なので、控訴したのです。」

 

と言われます。

 

弁護士の中にも経験が少なく、(初犯なら執行猶予がつくなどといった)不用意なことをおっしゃる先生もいらっしゃるようです。しかし、特殊詐欺の場合は、示談がなされな限り、初犯でも実刑になる方が普通です。

 

まとめ

特殊詐欺で逮捕されると、十分な示談ができない限り、初犯でも、2年半~3年半の実刑をくらいます。

 

十分な示談ができない限り、執行猶予はつきません。実際、被害者と被害金額が多すぎて、示談ができないことがほとんどです。

 

そして、長期間、刑務所で過ごしてしまうと、社会復帰が非常に難しくなります。

 

特殊詐欺グループは、会社組織での就職やアルバイトかのように装って、受け子等の末端者を募集してきます。若者が気軽に始めてしまいます。

 

そして、詐欺グループの幹部は、その若者たちに個人情報を提出させて、グループを抜けだそうとしても、家族に危害を加えるなどといって、抜けさせなくなります。

 

警察署に行くと、特殊詐欺撲滅運動とかいって、被害者が被害に会わないための様々な策を講じており、これは被害を出さないために良いことです。

 

一方で、加害者になってしまう若者が、特殊詐欺に手を出さないようにする啓蒙活動は不十分なように思います。加害者を出さないようにすることにも重きを置くべきですが、現状あまり見られません。

 

特殊詐欺は、(数千万円の示談金が払えなければ)初犯でも、2年半~3年半。一生が台無しになります。

 

というキャッチフレーズで、警察に啓蒙活動を行って頂きたいところですが、特殊詐欺の厳罰はあまり知られておりませんので、記事にした次第です。

 

今回、大変しつこい内容になってしまいましたが、若い方の人生が取り返しのつかない事態になるのを何件か見て来ましたので、ご容赦ください。