私が担当した刑事事件を、個人情報を特定しないようにデフォルメして、ご紹介したいと思います。
以前に、傷害事件を紹介しました。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
今回は外国人が逮捕、勾留された事件です。
事案(傷害事件-外国人)
初めての外国人の被疑者の事件だったように記憶しています。被疑者は、トルコ人で、同じくトルコ人の被害者を、ビール瓶で殴ったという容疑です。
本当だとすれば、聞いただけでも恐ろしい。ビール好きとしては、ビール瓶はそういう風に使うものではありません、と言いたい。
さて、そうも言ってられないので、接見(=面会)に行きました。被疑者は、飲食店の仕事をしており、他のトルコ人グループとの喧嘩(恐ろしくいえば闘争)で、被疑者が対立するグループのトルコ人の一人をビール瓶で殴ったらしい。
「誰か他の人が殴ったんじゃないか、俺は知らない。」
とおっしゃっていました。外国人の、しかも、否認の事件、これは大変です。
接見後、被疑者の弟さんや同じグループのトルコ人4人くらいに囲まれて、喫茶店で、今後のことを話ました。トルコ人に囲まれて喫茶店で詰問されているスーツを来た日本人(私)。他の方が見たらどのように映っていたでしょう。私も、やや恐ろしいなぁと思いながらも、ひたすら現在の状況や今後の捜査の流れなどを弟さんらに説明していました。
幸い、何人かには日本語が通じるので、通訳はいりませんでした。この場合、通訳の方(できれば日本人)に居て頂いた方が、いろんな面で安心できたかも、とも思いました。
私は、素直に、
「トルコ人同士の喧嘩って、ビール瓶で殴ったりするの?」
と聞いてみました。
「そんな訳ないだろ!」
との答えを期待したのですが、
「結構あるかもね。」、
との返答に、ぞっとしました。
察知されたのか、
「大丈夫。俺らは日本人には手を出さない。日本に住ませてもっているわけだし、商売も
やらせてもらってるわけだから。俺たちは日本人を尊敬しているし。」
なんか、「堅気には手を出さない」的な感じでした。それを聞いて、「やや」ほっとしました。
当時は知りませんでしたが、どうも(多分)下記の事件で日本人がトルコ人の救出に尽力したことや、日露戦争で日本が勝ったことで、トルコ人の日本人に対する印象は一般的には良いようです。
勾留になっくいかない外国人
外国人の方は、大抵、長期間勾留されることに納得しません。遠慮せず私に文句を言います。
「何でこんなに(10日間など)長期間勾留されなければならないのか?」
とよく聞かれます。否認しているときはもちろん、自白しているときでもそうです。
今なら、
「ゴーン事件知ってるでしょ。日本は、世界から非難されているように人質司法なんだよね。」
と説明できるのですが、当時はそのような具体例もなく、ただただ、外国人だけではなくて日本人でも勾留されることは多くて大変なんだよ、と必死で説明していました。実際は、外国人の方が、日本人よりも勾留されることが多いのが現実ですが。
弁護活動
否認事件ということで、示談をするわけでもないし、誰が本当にビール瓶で殴ったのか(真の加害者)も判然としません。被害者もトルコ人で、被疑者のグループの方に、被害者の名前を聞いてもよく知らないらしい。
「要するに、そいつ(被害者)に、金を払えば、兄はすぐ釈放されるのか?」
と被疑者の弟さんから言われ、
「うーん。いや、でもお兄さんはやってないと言っているのだから、示談(お金を払う)のは筋が通らないでしょ。」
と説明したり、新の加害者は誰か、被害者は特定できるか、という話題を、こちら側のグループのトルコ人たちと延々やっていました。
結末
この事件どうなったかというと、なんと、勾留が延長されて合計20日になったものの、最終的には起訴されずに、無事釈放されました。
私としては、事件や今後の流れの説明以外は特に大した貢献はできなかったのですが、無事釈放されたことで大変感謝されました。被疑者のお店で、いつ行ってもタダでご飯を食わせてやると言われました(が、行ってません。)。
その当時は、ただただ良かった良かったと思っていましたが、今思い返すと、加害者(被疑者)も被害者もトルコ人で、関係者の言っていることも二転三転している感じだったので、検察官としては恐らく起訴(裁判)にするのは危険(公判を維持できず、無罪になってしまうおそれがある)と弱きになったのではないか、と思われます。
ケバブとトルコ人について
冒頭の写真は、私がドイツに留学していたときに良く食べたケバブの写真です。トルコと言えば、ケバブですね。ドイツには、トルコ人も多く、ケバブ屋さんもマック以上にたくさんあります。ドイツ(人)とトルコ(人)との関係は微妙ですが。
ビールはおいしいのに、なぜか肉料理がおいしくないドイツにあって、ビールにピッタリ合う美味しいケバブをしかも安く提供してくれるわけですから、ドイツ滞在中は、大変お世話になりました。
トルコ人は、最初は何となく怖い印象を持っていましたが、ドイツで多くのトルコ人の方に会い、イタリア人と同様、親しみやすくて良い方々が多かったです。ドイツの語学研修でも、ドイツ人と結婚したトルコ人のおばさんと同じクラスになりましたが、いつも、トルコのことを誇らしく語っていらっしゃいました。
ドイツ滞在中には残念ながらトルコを訪れる機会はありませんでしたが、またドイツに行くときは、ターキッシュに乗って、経由地のトルコを観光してみたい。
もっとも、今のコロナの状況ではいつ行けることやら・・・。
また、ときどき、刑事事件の内容やその弁護活動を説明していきたいと思います。