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弁護士報酬はいくらかかるか?(刑事事件編)

「刑事事件の弁護士報酬は高いか?

たとえば、警察から、自分の子どもや夫が、酔っ払って誰かに怪我を負わせてしまい、傷害罪で逮捕された、という連絡を受けたとします。初めてだと、あたふたしてしまいますよね。

知り合いの弁護士がいれば、すぐに連絡をとり、その弁護士や、その弁護士から紹介された別の弁護士にお願いするということが多いかもしれません。

でも、知り合いの弁護士がいないときは、ネットで検索して上位でヒットした法律事務所に電話して依頼するかもしれません。実際、そのパターンが多いと聞きます。

そして、弁護士報酬の相場もわからず、しかも、家族が逮捕され、相当あたふたされていると思うので、弁護士のいうとおりの報酬額を払って、契約してしまうかもしれません。

 

最近聞いた話として、逮捕された方の家族から、「実は、私に頼む前に、ネットで別の弁護士に相談したが、逮捕から勾留が決定するまでの間(2、3日)の着手金が100万円だと言われ、さすがに100万円は高すぎておかしいと思ったので断った、というのがありました。

 

皆様は、2、3日の弁護士への依頼で、着手金100万円というのはどう思われますか?

 

なお、その件は、後述する報酬額基準、すなわち、逮捕から釈放までの約2週間のトータルで報酬額50万円(着手金20万円+釈放に伴う成功報酬30万円)で、私が受任しました。ご家族の全面協力もあって、早めに示談も成立し、勾留も10日で済みました。仕事もクビにならずに済ませました。

刑事事件の報酬額の参考(「当番弁護士マニュアル」の記載)

弁護士報酬は、各弁護士が原則として自由に設定できるので、値段はあってないようなものです。一般の方は、100万円と言われても、高くても、緊急で大変な事態だし、そういうものか、と払ってしまうかもしれません。

 

そこで参考として、当番弁護(弁護士が所属する弁護士会に事前に名簿登録して、担当日に、逮捕された者やその家族から依頼を受けて、初回の接見だけ無料で対応する制度)のマニュアルには、報酬について以下のように書かれています。

 

「着手金及び報酬金の金額は、依頼者と協議し、適正妥当な範囲で決定してください。
ただし、以下の金額を上回る契約をする場合には、所属会への報告が必要です(…)。
(1) 被疑者段階の弁護活動の着手金は20 万円+消費税
(2) 公判請求されなかった場合(不起訴、略式起訴)の報酬金は30 万円+消費税
(3) 公判請求された場合、起訴後一審判決までの弁護活動の着手金は30 万円+消費税
(4) 一審判決による報酬金は30 万円+消費税

なお、裁判員裁判対象事件など困難な事件もありますので、事件の難易度、弁護活動の内容、依頼者の資力等を考えて、上記にかかわらず相当な契約内容を依頼者と取り決めてください。」(「当番弁護士マニュアル本文編」2018年6月版、東京三弁護士会、刑事弁護センター。下線は私が付けました。)

 

ちなみに、刑事事件(身柄事件)の流れは、正確に説明すると長くなるのですが、ざっくり言うと、

(A) 逮捕(1日目)→勾留決定(3日目)→勾留満期(12~22日目)と、だいたい2~3週間、警察所(留置施設)に勾留され、

(B) もし、起訴されたら(=裁判になったら)、プラス1、2か月(事案にもよる)拘置所に勾留される(ただし、保釈の可能性あり。)、

という感じです。

 

上記マニュアルに記載の報酬額は、要するに、

(A)の場合、裁判に至らず釈放された場合、2~3週間で、トータル50万円

(B)の場合、裁判に至った場合、判決まで、2か月程度で、トータル50~80万円

です。それ以上の額になる場合は理由とともに、所属する弁護士会に報告せよ、と。

 

なお、(詳しく説明しませんが、昔あった)旧日弁連報酬等基準では、これよりもう少し高いくらいですね。

 

先に挙げた例は、受任しましたが、ごくありふれた簡単な事件でした。逮捕から勾留までの2、3日で着手金のみで100万円というのは、上記マニュアルの基準と比べると、随分高額に設定されていることがわかると思います。桁外れに有能な弁護士かもしれませんね(笑)。

私の場合

私の場合、(桁外れに有能な弁護士ではありませんが、10年で200件程度の刑事事件の担当しました。)、ごく通常の事件、万引き(窃盗)、詐欺(振り込め詐欺など)、痴漢、暴行・傷害・公務執行妨害、薬物事案(大麻覚醒剤)、交通事案(酒気帯び運転、人身事故など)、いずれも、上記マニュアル基準の報酬で受任しています(プラス実費を頂くこともありますが。)。

 

もっとも、被害者が多い場合(万引きが多数回で、複数の被害者と示談しなければならない場合)や、遠隔地の場合、有名人・外国人の場合、必然的に作業が増えるので、ある程度報酬額が上がるかもしれませんが…。なお、重大事件の裁判員裁判は、事務所との関係で残念ながら担当できません。

 

家族が逮捕されるという深刻かつ緊急事態とはいえ、弁護士の報酬額については上記をご参考頂き、くれぐれも不相当に高額な報酬を払わなくて済むようにお気をつけください。

広告を出しているところは、その分、広告費を回収しなくてはいけませんからね。

 

なお、(安くて有能だから)「私に刑事事件を依頼してください!」という趣旨ではありません。是非、普段から気軽に相談できる弁護士を見つけておいてください。刑事弁護をやらない弁護士も多いですが、弁護士からの紹介であれば、それほど変なことにはならないと思います。

 

今回は、作業負担に比べて不相当に高額の着手金・成功報酬をとろうとする弁護士が少なからずいることがわかったので、一般の方には馴染みのない報酬額について、ごく簡単に相場をご説明した次第です。

もちろん、事件の内容・性質にもよりますので、予めご了承ください。

いくつかの法律事務所に電話して、報酬額だけ明確に質問した上で比較するというのも手かもしれません。

逮捕されたら、どのような弁護士に依頼すべきか?

弁護士の質の問題についてはまた別問題です。これまた一般の方には判断が難しいです。一つ言えることは、ネットで上位でヒットしたところや、宣伝が派手なところが、良いとは限らないということです。もちろん、良い先生もいると思いますが。「保釈を獲得!」とか「執行猶予獲得!」とか、いかにも凄そうに書いてあるホームページもありますが、初犯の薬物使用事件のように、事件によっては誰が弁護してもそれらが可能な事案一杯ありますから。「検察の求刑から減刑を獲得!」というのも、実刑の場合は普通ですから。

私、事務所のHPにも、刑事事件の専門なんて書いていなくても、実際結構やってますからね。刑事事件が「専門」だと大々的に謳っていない弁護士でも、刑事弁護に熱心な良い弁護士はたくさんいます。

余談ですが、弁護士は、同種の事件を3件担当すれば、その「専門」と名乗ってもよいなんて話もあります(笑)。そうすると、私は離婚事件の専門家でもあるのかぁ。離婚は決して受任したいとは思いませんが。

詳しくは、また近いうちに。