はじめに
今回は、控訴審で保釈されていた被告人(在宅事件)について、残念ながら(一審の実刑判決を維持する)控訴棄却判決がなされたところ、上告して再び保釈が認められたという事件について、備忘録も兼ねて記事にしたいと思います。
保釈請求
被告人が起訴されると、保釈請求ができますが、一審(地裁)、控訴審(高裁)で保釈許可決定を得たことは、これまでもありました。
以前、下記の記事でも書きました。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
しかし、今回は、珍しく上告審の段階で保釈決定が認められたので、手続きも含めて、記録として残しておこうと思います。
事案
控訴審から国選弁護人として活動し、控訴審で(再)保釈が認められていました。
しかし、残念ながら、控訴棄却判決(一審判決の実刑維持)がされ、これに伴い、再び収監されてしまう状況になってしまいました。
そこで、控訴審の国選弁護人の立場で、(再々)保釈請求をし、上告審段階でも保釈が認められ、無事に収監されずに済みました。
そういう事案です。
保釈決定までの流れ
保釈決定までの流れ(時系列)は、以下のとおりです。
・〇月1日: 残念ながら、控訴棄却決定(第一審の実刑が維持されました。)
※一審の場合は判決後にそのまま収監されてしまいますが、
控訴審ではすぐに収監はされません。後日、出頭します。
: 即日で、最高裁宛ての上告申立書を提出。
※控訴審の国選弁護人の名義でできます。
※高裁の事件係に提出します。
: 同時に、東京高裁宛ての保釈請求書を提出。
※保釈請求も、控訴審の国選弁護人の名義でできました!
※高裁の事件係に提出します。
※まだ、記録が高裁にあるので、保釈請求の宛先は高裁だそうです。
上告審から国選に選任された場合は、既に事件記録が最高裁に
来ていますので、最高裁判所宛ての保釈請求になると思います。
・〇月2日: 被告人宛てに、東京高検から出頭するよう要請する書面が届く。
※出頭日は、〇月13日となっていました。
・〇月3日: 保釈許可決定で、即日納付。
これで、〇月13日の出頭は免れました。
上告棄却決定後までは、出頭を免れます。
控訴審弁護人は、控訴審の判決後に、上告申立書だけでなく、保釈請求書も提出できる
国選の在宅事件(控訴審)の場合は、被告人の代わりに、上告申立書を提出してあげることは時々あります。
しかし、再び収監される状況で、上告審の段階で保釈請求もしてあげたのは初めてです。
そのような事例は、いままで経験がありませでした。
そもそも、高裁で、あまり保釈決定出してくれませんしね。
また、控訴審判決後に、国選弁護人の任務は終了しますので、私、控訴審の国選弁護人の立場として、上告申立てはできても、保釈請求はできないと思っていました。
でも、担当書記官によれば、上告審の弁護人が新たに選任されるまでは、控訴審の弁護人が、その名義で、保釈請求をすることも可能だそうです。
現に、私(控訴審弁護人)名義の保釈請求により、高裁が保釈許可決定を出してくれました。
決定するのは高裁
上告審の段階なので、最高裁が保釈の決定をするのかと思ってしまいます。
しかし、控訴審判決後、上告申立てに伴い、事件記録が高裁から最高裁へ送られるのは、暫く後になってからです。
ですので、控訴審の判決後に、すぐに保釈請求をする場合は、控訴審の判決をした高裁宛てに保釈請求をするようです。
私は、実は、上告申立書と同じく、最高裁宛ての保釈請求書を一旦提出したのですが、その後、高裁の事件係から後で電話があり、「宛先を、高裁にしてください。」と言われ、訂正しました。
そして、(最高裁ではなく)東京高裁が、保釈許可決定をしました。
保釈金は流用可能、上乗せ分は新たに納付
控訴審の弁護人として、控訴審で保釈決定を頂いた際に、保釈金を納付していました。
「控訴審と同額でお願いします。」と保釈請求書に書いたのですが、ダメでした。
今回の上告審での保釈決定は、保釈保証金は、控訴審での保釈保証金の額に、50万円が上乗せされました。
通常は、一審、控訴審、上告審と、保釈保証金の額は上がっていきます。
既に納付していた保釈金は、そのまま流用してもらえます。
保釈請求書にその旨書いておいた方がよいです。
50万円の上乗せ分は、今回納付しました。
東京高検は、被告人にすぐに出頭状を送付
控訴審判決の翌日には、被告人に出頭状が送られたようです。
わざわざ、東京高検から、私宛に、「〇月13日午後〇時出頭を要請する旨の書面を、被告人に送りました。」という電話連絡が来ました。
保釈請求すると、高裁から高検宛てに「求意見」(保釈を認めてよいか、意見を求めること)がされるはずです。今回も、検察官としては、当然、保釈は認めるべきではない旨の意見をしたでしょう。
いずれにしても、検察官の収監の手続きは、上告期間の経過を待たずに、しかも、上告申立てや保釈請求がなされたこととも関係なく、進んでいくようです。
国選の報酬
保釈決定が出ると、国選の場合、追加報酬が貰えます! 何と1万円(笑)。
準備や申立書の作成には、大変な苦労をしますが、その割にはたったの1万円!
今回は、控訴審の段階で一回保釈決定が出たので、1万円の報酬が貰えます。
お腹一杯ビールを飲めますからまぁ良いですが。
そして、今回の件では、(控訴審弁護人の立場で、)上告審段階でも保釈決定が出たので、「更に、もう1万円貰える!」と思いましたが、法テラスに問い合わせると、
「身柄釈放は、1回限りの報酬なので、2回目の保釈決定は報酬でません!」
と言われました(悲)。
ちなみに、(あり得ないかもしれませんが、控訴審段階では保釈が認められず、でも)控訴審での判決後に、控訴審弁護人が保釈請求をし、そこではじめて保釈決定が認められた場合は、「1回目」なので、法テラスのお話では、1万円の報酬が出るようです。
いずれにしても、今回は2回目なので、「1回目の保釈許可決定分の1万円は貰えますが、2回目の保釈許可決定がでたからといって、更に1万円は貰えませんよ。」ということでした。
んー。
最後に
備忘録も兼ねて書いたので、一般の方には分かりにくい手続きの記載もあったかもしれません。弁護士の先生にはある程度参考になるかと思います。
まとめると、控訴審の国選弁護人は、上告申立てのみならず、(上告審の国選弁護人が選任されるまでは)その名義で(再々)保釈請求ができる、というのがポイントでした。
今回は、無事、保釈決定が出て、追加納付も済ませ、無事、収監されずに済みました。良かったです。
2回目の保釈許可決定で、法テラスからは報酬が出ませんが、自腹で缶ビール1本飲むに十分値する成果ですね。
ところで、本件の場合、上告審が終了すると、私の預かり口座に、(ゴーンさんのように海外逃亡しなければ、)保釈金が戻ってくるので、それを被告人にお返しする必要があります。
しかし、以前の下記記事でも書きましたが、国選は、審級毎(一審、控訴審、上告審)と別の弁護人が担当するのが通常です。
上告審は原則として、別の国選弁護人が選任されます。
つまり、現状、私は、上告審の国選弁護人を担当しなくても、上告審が終わった後で、被告人に保釈金を返金する手続きだけは残ってしまったという状態になりました。
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今回の件では、控訴審で保釈決定がされ、(控訴審が棄却に終わったものの)上告審でも保釈決定がされ、被告人にも信頼されているようで、上告審でも国選弁護人として担当してほしい旨の要請がありました。
ですので、最高裁宛てに、「引き続き、上告審でも、国選弁護人として選任されたい。」旨の上申書を提出します。
さて、実は、別件(無罪を争っている大変複雑な事案)でも、控訴審の国選弁護人を担当し、これも残念ながら控訴棄却判決になってしまったのですが、被告人から引き続き上告審でも国選弁護人になってほしい旨の要望があり、最高裁にその旨の上申書を出しています。
上の記事でも書いたように、原則的には、このような要望は認められないのですが(私は過去に認められたことがありません。)、今回と別件の2件の要望の結果については、またいずれ記事にしたいと思います。
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